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肌のアンチエイジングはいかにして可能になるか

解剖学的に考えると難しそうでも研究者たちは挑戦し続ける

北原秀治 東京女子医科大学特任准教授(先端工学外科学)

 肌につけた化粧品やスキンケア用品はどこまで浸透し、どのように作用するのか。筆者は解剖学(顕微解剖学)が専門であるので、この点については純学問的に大変興味がある。もちろん、一消費者としても知りたいところだ。幸い、最新のスキンケア研究をハーバード関連施設で研究する友人数人からかねてから抱いていた疑問点を聞くことができた。一般的に言う「化粧品」には“メイクアップ用品”と、老化を防ぐ、しわを無くすなどの“スキンケア用品”があるというのだが、本記事では後者のほうに焦点をあてて、その進化を解剖学的観点から追ってみたい。

スキンケア用品の過去と未来

 マサチューセッツ総合病院の皮膚科医に聞くと、ボストンは日本に比べて非常に乾燥しているので、肌を保護するためにもワセリンをつけた方がいいと言う意見をくれた。素人にとってワセリンといえば何かの潤滑油的なもので、成分としては全く別ものであるが、よく似た名称でグリセリンの存在が思い浮かんだのだが、同じくハーバード大学で研究している友人に聞くと、なんと、世界でグリセリンを越える保湿剤はまだ開発されていないそうである。

 しかしグリセリンはいわゆる低分子化合物であるため、安全で効果もあるが、ご存知の通りベタベタするので不快感極まりない。そこで企業は、いかに水分を肌に保持させるかと、いかに使用した後の感じが良いか(なじむ、べたつかない、さらさらするなど)の間で奮闘しているという。グリセリンの効果は絶大で、だいたい平均的に4-8時間程度も肌の水分を保持するという。確かに機械の潤滑油と同じといっても過言ではないのかもしれない。

デパートの化粧品売り場。アンチエイジング(抗加齢)をうたう商品がたくさん並んでいる=米谷陽一撮影

 一方スキンケア用品は、正しい使い方があるそうだ。はじめに乾燥している肌に化粧水で水分を与え、乳液(オイル入り)で補充した化粧水の水分が乾燥しないように保護する。夜のスキンケア後に睡眠を取るので、その間に肌の新陳代謝を促すためクリームで肌に不足しがちな栄養分を与えるとよいし、朝のスキンケアの場合には日中に浴びる紫外線を防御するためのサンスクリーンを塗ることが理想だ。

 以上は、客観的に考えて理想的な化粧ステップだが、一部の化粧品会社では、最初に乳液を塗らせ、二番目に化粧水を塗るということを勧めている。なぜなら、店頭などで購入を検討するため商品を試す際にそうすると理想な順序よりもなんとなく爽快感を得られ、商品が売れやすくなるからだという。

 また化粧品の好みについて聞けば、欧米と日本の趣向の違いもあるらしく、欧米ではクリームのように少しべたつくものが好まれ、日本ではサラサラ感のものが好まれるという。ただこの傾向は、遺伝的に異なる肌状態や生活習慣の違い、気候や湿度が影響していると考えられているが、どうしてそうなのかは、実はまだよくわかっていないという。

再生医療を導入するスキンケア業界

皮膚構造の概略
 皮膚の構造を簡単に説明しよう。一番外側が、角質層だ。体の外と中を仕切るのが基底膜で、基底膜の上を表皮(角質層もこれに含まれる)、下を真皮と呼ぶ。真皮の下には皮下組織が広がる。真皮には汗腺があり、皮下組織には脂肪や筋肉がある。

 これからのスキンケアのあり方として注目されているのが、iPS細胞がノーベル賞を取って一躍有名になった再生医療だ。実は、

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