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データで示された「日本の女性研究者はつらいよ」

論文データベースを持つエルゼビア社が初の大規模ジェンダー分析

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

 世界最大級の論文抄録・引用文献データベースを持つエルゼビア社が、研究におけるジェンダー状況分析のレポートを発表した。1996年からの5年と2011年からの5年で女性研究者比率がどのように変わったか、論文執筆数に男女差はあるかなど、多岐にわたるトピックを同社の巨大データベースを使って分析した。日本は女性研究者が際立って少ないとかねてから言われてきたが、この調査でも断トツに低く、国際流動性の男女差分析から日本では女性研究者が生きづらいことも示された。

研究者の男女割合。1996-2000,2011-2015の比較。女性が紫で、男性がグリーン。

 日本の女性研究者が少ないということは、内閣府が出す男女共同参画白書で明白に示されてきた。28年度版の国際比較を見ると、日本は14.7%で、比較対象となった29カ国中最下位。下から2番目の韓国でも18.5%いる。数年前は日本13%に対し韓国17%で、日本は韓国に追いつけないでいる。1位はポルトガルの45.4%だ。

 白書の数字はOECDや米国国立科学財団、日本の総務省などの調査結果をもとにしている。エルゼビアのジェンダーレポートは、論文の執筆者データをもとに分析しているのが特徴だ。ただし、論文には国と所属機関、姓名を書くが、性別は書かない。そこで、執筆者の性別については国ごとにそれぞれのファーストネームの男女割合がわかるリストを使い、男もしくは女である確率を計算したうえで確度が85%を超えるものだけを採用、それ以外は性別特定不能として分析から除いた。その結果、日米英など11カ国とEU28カ国を一つのまとまりとした計12地域について比較できた。

 研究者の男女比を1996年からの5年と2011年からの5年で比較したのが上図だ。下から5番目が日本だ。パッと見て、女性(紫)の部分がほかの国より小さいことがわかる。15年の間に15%から20%に増えたに過ぎない。

 男女共同参画白書の14.7%という数値は、総務省が大学や企業に調査表を送って研究者人数と性別を把握した結果から計算されたもので、こちらの方が実情を正確に表す数字と言えそうである。しかし、今回の調査で20%と出たということから、女性比率は国際誌に論文を発表している研究者の中の方が高くなるという推察も可能だ。つまり、論文を書かない研究者は男性の方が多いのかもしれない。もちろん、男女の性別判定を確率で行っているという調査方法の限界から、断定的なことは言えない。

研究者1人あたりの執筆論文数。紫が女性でグリーンが男性。右側の上から2番目が日本だ。
男女別の相対被引用インパクト。日本は右の列の上から2番目。

 しかし、その可能性を裏付けるデータが今回のレポートにあった。一人あたりの執筆論文数の男女差データだ。上の左図のように、ほとんどの国では男性の方が多いのに日本だけ女性の方が多い。日本では、女性の方がせっせと論文を書いているのである。

記者発表するエルゼビア・ジャパン社のルディービーヌ・アラニヤさん

 ただし、引用のされ方から(引用される件数が多いほど大きな影響を与えた論文と推察できる)影響力を数値化した「相対被引用インパクト」と呼ばれる指標で影響度を比べると、

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