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AIや仮想現実は、人の仕事をどう変えつつあるか

FInTechにつづく「不動産テック」を舞台に、「未来の働き方」を考えてみる

伊藤隆太郎 朝日新聞記者(西部報道センター)

 さまざまな産業が、新しいネット技術や人工知能(AI)を取り入れることで、変革を進めている。巷間「××テック」と呼ばれる動きだ。

 金融業界の「フィンテック」(FinTech)は、よく知られている。フィナンシャルとテクノロジーが融合して、古くさい業務スタイルを根底から変えつつある。「ブロックチェーン」はその最有力の基盤技術だ。取引手数料を大幅に減らし、人員削減を迫る勢いがある。

 これに続くように、××テックがあちこちで加速している。教育のEduTechや、医療のMediTechには勢いがある。農業でもAgriTechが進む。すべてのモノがインターネットに繋がる「IoT」を活用して、これまで人手に頼っていた仕事が機械へと置き換わりつつある。

 こうした変化を知るために、ReTech(Real-Estate Tech)の世界を見ていこう。つまり不動産テックだ。「テクノロジーが働き方を変えるとは、どういうことか」。そのイメージをつかむ手がかりにもなる。

広がりはじめた人工知能やVRの応用

 新興の6社に話を聞いた。さまざまな業務を展開している。

 物件情報の提供、価格査定、顧客とのマッチング、各種業務管理……。不動産という広い業界で、さまざまな仕事が分担されていることが分かる。それぞれの分野に専門家や業者がいる。

 賃貸と売買では、ノウハウが違う。業者向けと消費者向けでも、サービスは異なる。6社は、時には連携し、時には競い合いながら、事業拡大を図っている。

ITANDIの伊藤嘉盛さん
人工知能で問い合わせにも対応
【1】ITANDI(イタンジ)
=不動産賃貸の業務支援
 空室率を下げたい管理会社に向けて、内見の予約をネットで完結できる「内見予約くん」や、物件の空き状況の問い合わせに自動応答する「ぶっかくん」といったシステムを提供しているのがイタンジだ。入居者からの問い合わせに人工知能のチャット機能で対応する「nomad」(ノマド)というサービスもある。効率よく来店率を上げたい仲介会社向けには、顧客が探している条件に合った物件を自動メールで提案するシステムなどがある。

 「不動産業界の非効率な部分を、どんどん改善していきたい」と話すのは、代表の伊藤嘉盛さん。三井不動産レジデンシャルリース勤務などを経て、2012年に起業した。

店にいながら仮想空間で物件を内覧
【2】ナーブ =ヴァーチャルリアリティー(VR)内覧
 借りてみたい、購入したい、と考える物件がいくつもあるとき、現地まで出かけなくても室内の様子を確認できたら便利だろう。ヴァーチャルリアリティー機能を活用して、まるでその場にいるような内覧体験ができるのが、ナーブの「VR内見」というサービスだ。

ナーブのVR内覧で使われるゴーグル
 室内の四方八方を、ゴーグルを通じて映し出す。不動産業者に過重な負担をかけず、簡便にVR画像を製作できるのが、このサービスの強み。専用ソフトとカメラを利用し、わずか30秒で撮影できるという。画像をその場でアップロードすれば、作業はもう完了だ。「どの物件の画像データなのかを、GPSの位置情報によって自動取得するなど、徹底的な簡略化を図っています」と、社長の多田英起さんは胸を張る。

不動産に特化したSNS機能を提供
【3】ツクルバ 
=流通情報サイト
 中古住宅の流通に特化したサイト「cowcamo」(カウカモ)などを展開する。最寄り駅やエリア別だけでなく、「日当たりのよさ」「一人暮らし」といった条件や、求めるライフスタイルで物件をさがせる。豊富な写真や丁寧な説明が特徴で、従来の不動産サイトにはない身近さがある。内見の申し込みなどもネットで完結。各種セミナーも開いている。

 cowcamoのコンセプトは「家を買うことを学べるサイト」だと、取締役の上村康太さんは言う。購入したあとも、情報交換できるコミュニティー機能がある。「不動産に関わる幅広い情報提供のしくみをつくりしたい」

新しい不動産用途をデータ分析で発見

 さて、あと3社あるが、ここでいったん6社の関係を整理してみたい。マトリクスのなかに位置づけてみる。

 今回の6社は、「消費者向けか、事業者向けか」というサービス対象の違いや、「ハード指向か、ソフト指向か」といった基盤技術に差がある。ここから、下のように立ち位置が分かれる。

不動産業界で進む「ReTech」関連の新興企業マトリクス

 つまり、このマトリクスからも、不動産という業界にさまざまな専門分野や業務内容があることがイメージできるだろう。業界の裾野は広い。テクノロジーを活用することで、さらに未開拓の分野が見つかり、新規参入が続く予感がある。

 では、こうした立ち位置も参照しながら、残る3社の特徴を見ていきたい。

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