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社会全体では害より利益が大きい「加熱式たばこ」

紙巻きたばこからのスイッチを促せば、喫煙による死亡数は確実に低減していく

大島明 大阪大学大学院医学系研究科社会医学講座環境医学教室招聘教員

電子たばこと加熱式たばこ

 喫煙者の多くは、喫煙の害を知っているがやめようとはしない、あるいはやめたいのにやめられないでいる。これはニコチン依存のなせる業である。ただし、ニコチンそのものの害は煙に含まれるタールや一酸化炭素に比べると小さい。まさに「ニコチンのために喫煙し、タールのために死ぬ」(マイケル・ラッセル、1976)のである。

 嗅ぎたばこ・噛みたばこなどの無煙たばこや、ニコチンガム・ニコチンパッチは、有害物質を減らしてニコチンだけをとってもらう代替策である。しかし、これらはニコチンの吸収速度が遅いうえ、たばこを吸うときの「儀式」的な動作もないため、喫煙者の多くに不満が残り、あまり普及していない。これを解決するものとして登場したのが、電子たばこであり、加熱式たばこである。

電子たばこ。リキッドと呼ばれる溶液(右)を機器(左)に入れ、熱して出てきた蒸気を吸う

 電子たばこは専用カートリッジ内の液体(ニコチン、プロピレングリコール、植物性グリセリンなどを含む)を熱する。一方、加熱式たばこはタバコ葉を加熱する。紙巻きたばこではタバコ葉の燃焼に伴う煙が生じるのに対して、これらの新型たばこではニコチンを含むエアゾールが生じる。

 日本では、ニコチンを含む電子たばこは医薬品と位置付けられ、個人輸入の方法しか利用の道はない。加熱式たばこは「パイプたばこ」と位置付けられ、フィリップモリスのアイコス、JTのプルーム・テック、ブリティッシュ・アメリカン・タバコのグローが次々と登場してきた。小論では、先行の電子たばこに関する英米における研究や議論を参考にしながら、加熱式たばこの利害について考えてみる。

発がんリスクは圧倒的に低い

 加熱式たばこのエアゾールから有害物質や発がん物質が検出されたという研究を散見するが、加熱式たばこの評価は有害物質があるかないかという絶対的な尺度ではなく、紙巻きたばこと比べた相対的な尺度で検討するべきである。

加熱式たばこのアイコス。ブレンドされたたばこ葉を350°C以下で加熱して出てくる蒸気(エアゾール)を吸う。

 フィリップモリスの研究者は、アイコスのエアゾールと紙巻たばこの主流煙の化学分析や、取り出したヒト気管支上皮細胞に吹きかけてみるなどの実験を実施し、アイコスは紙巻きたばこより毒性が低いことを示した。さらに、東京の病院で160人の日本人喫煙者を対象に臨床試験をし、紙巻きたばこを継続して使用した人、アイコスにスイッチした人、禁煙した人の血液と尿を検査し、米国食品医薬品局(FDA)が示した「有害ないし有害懸念成分」の数値がスイッチした人では5日後に低くなったことを示した。これらの減少は90日後も続き、禁煙した人とほぼ同様のレベルだった。

 また、最近、英国セント・アンドリュース大学のステフェンス博士が、3種類のたばこの平均生涯発がんリスクを、公表された各たばこの放出物の化学分析データと各々を吸入した場合のがんリスクデータとを用いて推定し、加熱式たばこは電子たばこよりは大きいものの紙巻きたばこに比べると2桁近く少ないとした(Tobacco Control誌2017年8月4日電子版)。なお、電子たばこに関しては、イングランド公衆衛生局が「紙巻きたばこよりも95%安全である」とする報告書を2015年に公表している。

禁煙効果は研究途上

 国際的団体が作成する系統的評価として質の高さに定評がある「コクランレビュー」は、2016年に電子たばこの禁煙効果を取り上げた。2つの臨床試験を統合して、ニコチンを含む電子たばこではニコチンを含まないタイプに比べて6か月間の禁煙成功率は有意に高いとする一方、ニコチンパッチと比較して有意差はなかったとした。

 ニュージーランドの臨床試験では6か月後の禁煙割合は電子たばこ群で7.3%(289人中21人)、ニコチンパッチ群で5.8%(295人中17人)で、有意差はなかったものの電子たばこがやや効果的と示唆する結果だった。ニュージーランドでは現在新たな臨床試験を実施中である。

 加熱式たばこも、電子たばこと同様に禁煙効果があるだろうが、確認するには加熱式たばことニコチンパッチとを比較する臨床試験をする必要がある。

紙巻きたばこに誘い込むとの懸念は不要

 電子たばこが紙巻きたばこへの入口となるのではないかという「ゲートウェイ効果」に関しては、

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