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時代遅れのアセス法をどう乗り越えるか?

沖縄県宮古島で進められている環境アセスメント抜きの自衛隊基地建設

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 与那国島、石垣島、宮古島、沖縄島、奄美大島など琉球弧の島々で、国の中期防衛整備計画に基づいて自衛隊配備計画が進められている。住民の生命・財産・人権、平和的生存権の観点、さらには自治の侵害や地場産業の衰退、環境汚染などさまざまな観点から、島々で反対運動が起きている。

 日本の環境民主主義の現状は、環境に関する国際的な条約「環境に関する、情報へのアクセス、意思決定における市民参加、司法へのアクセスに関する条約」(オーフス条約)に比べて、四半世紀も遅れていると言われている。時代遅れの日本のアセス法で、島の環境が守れるのか。問題が浮き彫りになっている宮古島の例を見てみる。

宮古島の自衛隊基地と沖縄県アセス条例

 5万人弱の人々が暮らす宮古島は、隆起サンゴ礁からなる面積約160平方キロの平らな島だ。川がなく、人々は飲み水を全面的に地下水に頼っている。防衛省は2015年5月、宮古島の大福牧場一帯と千代田カントリークラブ一帯の2ヵ所に地対艦ミサイル部隊、地対空ミサイル部隊、警備部隊の約700~800人を駐屯させると計画した。だが大福牧場は地下水への影響が懸念されることから、千代田カントリークラブに絞る形に変更されて、事業が進んでいる。

沖縄県宮古島の計画地
 しかし千代田カントリークラブでも、地下水への影響の懸念が払拭されたわけではない。そこで宮古島の地下水保全に強い関心をもつ市民は、基地建設事業の環境アセスメントを求めることとなった。

 大規模な事業であれば国のアセス法が環境アセスを義務づけているし、アセス法の対象とならない事業については自治体が条例で環境アセスを義務づけている。沖縄県アセス条例では、条例アセスの対象事業として20の「事業の種類」を列挙しているが、その中に「軍事基地」はない。条例では「ゴルフ場」や「スポーツ・レクレーション施設」の建設ならば20ha以上で条例アセスの対象事業になるから、21.5haの千代田カントリークラブを「公園」にするならアセス対象となる。ところが明らかに環境にとって負担となる「軍事基地」にする際は、アセス対象とならない。

県条例改正の陳情

 そこで宮古島市の市民有志は、米軍と自衛隊による軍事基地建設をアセス対象とするようにと、2017年6月の沖縄県議会に陳情した。沖縄県には国内の米軍専用施設の70.4%が集中し、今また自衛隊の集中的配備計画が進められている。大規模な製造業がなく軍事基地こそが最大の環境汚染源である沖縄県で、アセス対象事業に「軍事基地」が含まれていないのは重大な欠陥と言わねばならない。

宮古島への配備が計画されている自衛隊の地対艦誘導弾
 この陳情に対する県の担当課(環境政策課)の処理方針は「条例アセスの対象事業の追加は、他の事業への影響もあることから、関係機関等から意見を聴取するとともに、平等性、比較原則の面からも検討する」というものであった。また、「検討にあたっては、アセス条例を制定している各都道府県および政令指定都市の対象事業の種類等を参考にする」ともしている。いずれももっともな方針だろうが、沖縄県ほど「軍事基地」のアセス対象化が求められているところは他にないという自覚は残念ながら感じられない。

 そこで宮古島市民らは9月県議会に第2弾の陳情をした。県アセス条例は20の対象事業に加え、21項として「1の項から20の項までに掲げるもののほか、環境に影響を及ぼすおそれがある土地の形状の変更、工作物の新設等の事業で規則で定めるもの」と記している。そこで、6月議会にも陳情したように「軍事基地」を新たなアセス対象事業に加えるか、あるいはこの21項を適用した施行規則を定めるかして、環境アセスを求めるべきだと主張したのである。しかし陳情に対して県の担当課が示した方針は、前の6月議会と変わらなかった。

自主アセスの問題性

 宮古島と石垣島における陸上自衛隊のミサイル新基地建設をめぐっては、沖縄県が防衛省にアセス実施を求めている。しかしそれは、アセス法やアセス条例に基づくものではなく、自主アセスである。自主アセスが本来の意味でのアセスでないことは、

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