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草津白根山の噴火は既視感ばかり

予想外の場所で起き、気象庁の初動は遅れ、自治体は観光優先

黒沢大陸 朝日新聞論説委員

 草津白根山の噴火で起きた事態は、既視感があることが目に付いた。

 専門家が「まさか」と思った噴火だったこと、気象庁が現状を把握する能力に欠けていること、観光地の火山ならではの反応があったことだ。火山が噴火すると、対策が打ち出される。今回も、気象庁は観測態勢の拡大を打ち出しているが、火山監視には限度があるし、噴火予知は難しく、今回のような小規模な噴火の予知は極めて困難だ。噴火予知を諦める必要はないが、突発的に噴火したときの対応を軸とした体制の見直しが必要だ。

「噴火速報」すぐに出せず

草津白根山の本白根山にできた新たな噴火口(手前)。山肌がえぐれ、大きな亀裂が見える=1月29日、群馬県草津町、朝日新聞社ヘリから
 群馬県草津町の草津白根山は、近年噴火を繰り返してきた湯釜周辺で再び噴火することが想定されており、約3千年ぶりと言われる本白根山での噴火は「予想外の場所」だった。だが専門家の想像を超える噴火は珍しくない。2015年6月に起きた神奈川県の箱根山の噴火の時も、事前に火山性地震が活発化して噴火警戒レベルがあげられていたものの、箱根をよく知る専門家さえ「まさか、自分が生きている間に噴火するとは思ってもいなかった」と漏らしていた。

 3千年は人間にとっては大昔だが、火山にとっては最近のことだ。今回や箱根山のような噴火なら痕跡は残りにくい。つまり、その後もあったかも知れない。本白根山の周辺も昔の火口だらけだから噴火してもおかしくない場所だった。草津白根山は、東京工業大学の研究者が常駐している。地元に専門家がいる数少ない火山だが、それでも予想外のことが起きる。災害は、直近のできごとが繰り返されることが想定され、それに縛られがちだが、人間の時間感覚から離れたスケール感を強く意識しなければならない。

 噴火が起きた時の気象庁の初動が残念だった。噴火して、ネットに映像が流れているにもかかわらず、気象庁は「噴火速報」を出せず、1時間後になって噴火警報を出して噴火警戒レベルを1から2に引き上げた。さらなる深刻度を認識して入山規制するレベル3に引きあげるまでには、さらに45分かかった。しかも、レベル3への引き上げ後、気象庁は草津町に連絡しておらず、苦言を呈された。

 噴火速報は死者・行方不明者63人を出した2014年9月の御嶽山噴火の教訓で、噴火が発生したことを登山者や周辺住民らにいち早く知らせるために導入したが、結果として教訓を生かせなかった。

噴火時に運行していた白根火山ロープウェイのゴンドラ=1月24日、群馬県草津町、関田航撮影
 噴火が発生したときの気象庁の対応は目を覆うばかりだ。まず、噴火が起きたときの現状を把握する能力が欠けている。2000年の三宅島の噴火では、専門家が「火砕流」と指摘するのに、気象庁はすぐには認めなかった。御嶽山噴火では監視カメラに映っている火砕流を見ても認識できず、専門家の指摘があっても否定までして、結局、後で認めた。2011年1月の霧島・新燃岳の噴火でも監視カメラで映し出されている噴火の様相が警戒を高めなければならない激しい噴火に変わったのに気づくのが遅れた。
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