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米軍基地汚染と日米地位協定の壁

沖縄の環境を守るには、国際的な市民の協力が欠かせない

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 日本本土の場合、高度経済成長の時代に深刻な環境問題をもたらしたのは主として製造業であった。しかし沖縄には製造業らしい製造業はない。戦後沖縄を支配した米軍の沖縄統治のねらいは、沖縄の経済社会を米軍基地に依存せざるを得ないものにすることにあり、沖縄の経済的自立を促す施策は皆無だったからである。

 この点について少し具体的に見てみよう。沖縄における代表的製造業は泡盛醸造業である。県内に47社あり、最大の醸造元の久米島の久米仙で年間売上高25億円、47社全体で約250億円である。これに対し焼酎メーカー全国一位の霧島酒造の売上高は650億円(2016年)である。この一事をもってしても沖縄に製造業らしい製造業がないことが明らかである。

 このため沖縄では、環境汚染源となる主たる施設および活動は、第一に軍事基地であり、軍事活動である。そして第二には、米軍基地容認の見返りとして特に沖縄の本土復帰以降に実施されることとなった高率補助による各種の公共事業である。

立ち塞がる日米地位協定の壁

 第一の米軍起源の汚染の場合、汚染者は米軍であるが、日米地位協定によって米軍基地には日本の法規制は環境法を含め適用されず、また基地の返還に際しても米国には原状回復の義務がない。

 日米地位協定第4条第1項は「合衆国は、この協定の終了の際またはその前に日本国に施設及び区域を返還するに当たって、当該施設及び区域をそれらが合衆国軍隊に提供された時の状態に回復し、またはその回復の代わりに日本国に補償する義務を負わない」と述べている。この地位協定こそが沖縄における環境問題の最大の原因であり、解決にあたっての最大の阻害要因である。

大破したオスプレイの部品を引き上げる米兵たち=2016年12月、沖縄県名護市
 2004年8月の沖縄国際大学への大型ヘリCH53の墜落、2016年12月の名護市安部沖のMV22オスプレイの墜落、そして2017年10月のCH53の高江での緊急着陸炎上のいずれの場合においても、沖縄県は日米地位協定の壁に阻まれ、墜落原因の調査も、汚染状況の把握も出来なかった。

 そこで重要になるのが1960年の制定以来58年間一度も改定されていない日米地位協定の改定である。これまでも沖縄県は政府に対し改定を繰り返し求めて来たが、国は聞く耳を全く持たない。米軍基地を専ら沖縄に押し込め、本土ではその問題が見えにくいことを良いことに、「運用の改善で対処する」としてお茶を濁し続けてきたのである。

 しかし運用の改善ではらちが明かないことは、沖縄では明々白々の事実である。そこで求められるのが他国に存在する米軍基地を巡る地位協定の実態の調査である。

 米国は世界中の多くの国々に800とも言われる軍事基地を置き、地位協定を締結している。「日米地位協定は他国における地位協定と比べ何ら遜色ない」と言い続ける政府に事実を提示し、最低限、他の地位協定で実現されていることを日米地位協定においても実現するよう政府に働きかけ、国民世論を喚起することが必要となる。

進められる地位協定の実態把握

 従って沖縄の人々の命と暮らしを守るには、米軍基地を抱え同じ課題に直面している世界中の人々とつながっていくことが不可欠となる。他国における地位協定の実態把握が沖縄に最も求められる環境国際協力となるゆえんである。

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