一色清
2010年06月24日
――新聞記者は日々の取材で一次情報を取るのに大変な苦労をしています。そこに莫大な労力とコストをかけています。些細な事実確認でもそうです。例えば、組閣人事などで、農林水産大臣には誰が就任するのか、というようなことでも、いわゆる夜討ち、朝駆けをしながらとってくるのです。こうした地道な仕事を通じて政治や社会へのチェックも効くようになりますし、そんな粘り強い努力の中からおもしろい話とか、裏に隠されていた事実がでてきたりする。それにはコストがかかります。それが賄えなくなれば、新聞社が担ってきた報道の機能が衰えかねず、日本の社会全体に良い影響は与えないのではないかと思うのですが。
とても重要で、良いことに触れたと思います。そういう意味で、私は多摩大学の学生に九段のサテライトキャンパスで共同研究をさせています。5人ずつくらいのチームで、フィールドワークと、文献研究に取り組ませています。それを粘り強くやらせないと、要領よくチャカチャカチャカとキーワード検索してレポートは作れるけれども、絶対に問題は解決できない。情勢を解説まではできるけれども、問題を解決できない。
例えばこういう状況になった時にどういう風にその問題を超えていけるのか。問題を解決するには生身の人の顔を見なきゃいけない。説得して動かさなきゃいけない、人の心を。人の心を動かせない人間になってしまっているんですよ。「あぁ、こいつのためだったら俺は動いてやろう」と思うような、説得ができない。無機的になってるから。だけども状況解説だけはできるんですよ。
――WEBRONZAをオープンするにあたって、私たちは、考えました。時代を論じる紙の媒体の場がどんどん少なくなっていて、やはりこれはウェブ上でやらないといけないなと。書く場がないという論者がいる一方、そういうものはもうつまらない、読みたくない、大状況は関係ないという人が若い人中心に増えるような気がします。やはり大状況を論じたり、大ニュースを解説したりする場が必要だと思うのですが、その辺りへの期待を寺島さんはお持ちですか。
ウェブというのは、いい部分を言えば、その参画型のメディアだから、いろんな人が参画して付加価値をつけていける。ただし、これを一つのテーマについて深めていくためにはプロジェクトリーダー、プロジェクトエンジニアリングのスペシャルリストが、やはり必要なんですよ。例えば、その物事の軽重の判断を下せるようなリーダーが必要なのです。
メリハリをつけていかなければいけないんですよね。方向づけも必要です。しかも、この話と、その話は実は相関しているという流れをつくっていかなければいけない。そうすると、参加してきた人間がつくっていくものがどんどんどんどん大きくなっていって、途方もなく大きく、深いものになるかもしれない。
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