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[1]懲りないJALの「天下り」

大鹿靖明 ジャーナリスト・ノンフィクション作家(朝日新聞編集委員)

 福岡空港ビルディングは6月22日の株主総会で、公的支援のもと再建中の日本航空(JAL)出身の大島敏業氏(60)を取締役に選任し、彼は同日の取締役会で副社長に就任した。大島氏は、JALが今年1月、会社更生法を申請した倒産時の取締役である。JALは、福岡空港ビルディングに17%出資する筆頭株主で、常に同社に社長かもしくは副社長の「天下り」ポストを得てきた。今回の人事は、経営破綻してもなおJALが天下りポストの権益を維持したといえる。

 

 その3日前の6月19日には東証一部上場のJAL系商社ジャルックスの副社長にJAL出身の高橋淑夫氏(59)が就任している。高橋氏も、経営破綻時の西松遥社長体制のもとで取り立てられてきた人物で、JALの執行役員やJALインターナショナルの執行役員関連事業室長を務めてきた。大手総合商社の双日が30%、JALが21%出資する同社では、日商岩井(現双日)出身者が社長に就いている。副社長はJALが握った。

 

 倒産したJALからは5月末までに3610人が早期退職した。そのうち50歳代の少なからぬ人たちが上司から辞めてくれるよう促されている。「自発的」というのは建前に過ぎず、実質的な勧奨退職が大手を振るう。内心は辞めたくないが、「我が愛するJALのため、会社再生の捨て石になります」と、企業戦士らしい物言いをして辞めていった幹部社員もいた。秋にはパイロットを中心に第2弾の早期退職が行われると言われている。だが、辞めていく人たちの再就職はままならない。運輸・観光業界に求職を希望する人がいちどきに大量に出てきても、とても吸収できないからだ。

 

 JALが前回(2007~08年)実施した早期退職では、最大で月額給与の50カ月分もの割増退職金がつき、本来の退職金とあわせると最高8000万円もの退職金を受け取る人もいた。しかし倒産によって、そんな「大名リストラ」は無理である。今回JALを去る人たちの割増退職金は6カ月分(平均500万円)しかない。

 こうして3610人が塗炭の苦しみを味わう一方、「戦犯」ともいえる倒産時の役員たちが早々に天下りポストを確保する。倒産直後に西松社長が日航財団の理事長に天下ったのにも驚かされたが、西松体制下の他の役員たちも「右に倣え」と天下る。社内やOBから不平や批判がわき起こるのは当然で、私はこれまでに2通の投書(怪文書といってもいい)を受け取った。最近受け取ったものには、こうある。

 

 「3600人を超える現役社員が退職を余儀なくされ、再雇用もままならぬ厳しい環境に放り出されるにもかかわらず、日航破綻に直接の責任を有する前役員たちが次々と天下り、渡りを決めていく光景、これが本当に許されるのでしょうか」

 

 投書は、こうした天下りを仕切っているのが、人事労務を担当する大村裕康氏(58)と名指ししている。大村氏は、実力者の兼子勲元会長の傀儡政権だった新町敏行社長を辞任に追い込むクーデターを起こした「4人組」のひとりだ。その後、西松氏を後継社長に担ぎ出し、西松体制を支えてきた。

 

 「閉塞感の打破」を掲げて新町体制を打倒したにもかかわらず、自分たちが権力を掌握すると、余計閉塞感を強め、ついにはJALをつぶしてしまった。大村氏はその責任者である。しかもつぶれた後もしぶとく生き残り、専務執行役員として役員ポストを維持しているのである。

 

 「派閥に連なる元役員たちには関連会社のさらに子会社などに顧問、特別顧問、嘱託、特別嘱託などのさまざまな名称で押し込みをしています。このような動きを見ると、これらの連中は既にJALの二次破綻を必至のものと見ているような感さえ受けます。二次破綻すれば、当然ながらJALと取引の多い、資本関係の厚い関連会社は大きな影響を受けます。そのときに備え、資本関係の厚いところをわざと避け、今のうちにという思いで無理な押し込みをしているのです」

 

 そう投書は指摘する。

 

 同じような話はJALの元部長からも直接耳にした。幹部のモラルハザードぶりは、いかにもJALらしい。

 JAL広報部員に聞くと、「大島の事例も高橋の事例も、適材ということで相手先企業に認められて就任したということです」という答えが返ってきた。その後で若い広報部員は一瞬間をあけて、「型どおりのお返事で、御納得、いただけませんよね?」と続けた。彼も思うところがあるのかもしれない。