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デフレの構図、世界的な構造変化を直視せよ

藤井英彦

藤井英彦 株式会社日本総合研究所 調査部長/チーフエコノミスト

 わが国経済は1990年代末以降、デフレに陥っている。2007年末から08年末まで一時的に物価が上昇したが、主因は原油や鉄鉱石など一次産品価格の高騰だった。輸入コスト増加による物価上昇であり、所得が海外に移転し、国内所得が減少した。デフレは需要不足問題という視点からみれば、07年末以降の物価上昇期もデフレとして差支えなかろう。

 それでは、なぜ10年以上デフレが続き、終わりが見えないのか。答は需要不足ではなく、供給過多にある。世界的な構造変化だ。1989年の東西冷戦終結後、旧社会主義圏が開放され、経済成長を始めた。とりわけ中国の飛躍は著しい。輸出と投資を二本柱に急成長を遂げ、世界の工場となった。

 さらに2000年代半ば以降、インドやブラジルをはじめ数多くの国々が停滞から成長へ離陸を始めた。今日、新興各国の経済成長が一段と力を増している。先進国経済の低迷が長引くなか、成長市場を求めて世界から企業や資本が参入する動きが強まったからだ。

 その結果、世界の製品需給は様変わりとなり、供給過剰が常態化した。加えて新興国製品は低価格が武器だ。価格下落圧力の増大に拍車が掛かる。

 しかし、ここで次の疑問が生まれる。新興国の台頭はグローバルな動きである。なぜわが国だけデフレに陥り、欧米各国は無傷なのか。それは経済構造の違いに起因する。

 典型例としてアメリカと図式的に対比してみると、製造業が後退し、サービス化が進んだアメリカでは、割安な輸入品が増加すれば、実質所得が増加して経済が成長する。輸入品と競合しなければ、雇用喪失や企業倒産というマイナスは生じない。

 この点がわが国と最大の違いだ。わが国でも実質所得の増加効果はあるものの、競合関係にあるため、ダメージが大きく、需要減少を回避できない。

 サービス化経済も安閑としてはいられない。インドや中国へ業務を移転させるなど、IT分野をはじめとして空洞化が拡がっているからだ。アメリカでは州レベルを中心に、単なる経済問題でなく、雇用を守れという政治イシューにする動きが強まっている。

 そうしたなか、先月、クルーグマン教授は、現下のアメリカ経済が直面する不況リスクを指摘した。1929年の金融型ではなく、1873年型、すなわち、米独という当時の新興国の台頭によって世界経済が構造変化を遂げ、物価下落による深刻な景気後退から長らく脱却できなかったというリスクである。

 構造変化のダメージを克服する鍵は成長戦略にある。高付加価値産業を創出し、新たな需要を生み出すことで初めて縮小均衡から脱し、拡大均衡への転換が可能になる。新機軸の確立に向け、官民の総力を挙げた取り組みが焦眉の急である。


筆者

藤井英彦

藤井英彦(ふじい・ひでひこ) 株式会社日本総合研究所 調査部長/チーフエコノミスト

【退任】(株)日本総合研究所 理事/チーフエコノミスト。83年東京大学法学部卒業。同年住友銀行入行。90年より(株)日本総合研究所、11年から現職。共著に「オバマのアメリカ 次なる世界経済の行方」(東洋経済新報社)、「2006 図解 日本総研大予測」(徳間書店)、「図解 金融を読む辞典」(東洋経済新報社)。

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