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役員報酬よりも過労死や36協定の開示を

渡邉正裕

渡邉正裕 渡邉正裕(MyNewsJapan代表取締役、編集長、ジャーナリスト)

 「日本海庄や」に入社して4カ月後の2007年8月に過労死した新入社員がいる(労災認定済み)。私が在籍していた新聞社でも2002年の夏、新人記者が突然、ホテルで亡くなっているのが発見され、翌年から「入社半年後研修」が始まった。夏は心身の疲労蓄積から、企業側による十分なケアが求められる季節だ。

 こうした悲劇を防ぐためには、具体的に何が必要なのか。前述の日本海庄やで息子を失った吹上了さんはインタビューに答え、「第一に、過労死ラインを越える『36協定』を違法にすること、第二に、過労死を出した企業は公表すること」と強く訴えている。

 実際、日本政府(菅直人首相、長妻厚生労働大臣)は、「過労死するまで働かせたもの勝ち」な仕組みを放置している。正式に労働基準監督署が過労死認定を下した件についても、企業利益を優先させ、個別の企業名を非公開にしているのだ。

 厚労省の発表によると、業務上で過労死を認定された件数は2007年度142件、2008年度158件、最新の2009年度は106件。その具体的な企業名や事業所名を明らかにしようとMyNewsJapanで情報公開請求をかけたが、真っ黒塗りの書類を出してきただけだった。

 理由を尋ねると、「出すと会社の不利益になるから」という、まさに企業べったりの理由を堂々と述べるのだった。労働者の命を犠牲にして生み出された企業利益を守る必要があるとは到底思えない。

 「36協定」とは、労働組合と経営側とで、月あたり、年あたりで何時間の残業をさせてよいかを合意し、労基署に届けるもので、事実上、青天井となっている。つまり、労基署が過労死認定の際に目安としている月80時間以上の残業を、企業は合法的に実行でき、労基署自身がその協定を受理せざるをえないのが現状だ。

 この問題に取り組む松丸正弁護士はインタビューでこう述べている。

「そんな36協定は公表しますよ、とやってしまえば企業は絶対、持ってきません。一定の枠組みを決めて、その枠組みを超えた場合は公表する、という形で制裁措置をとる。過労死が起きたら、名前が公表される。それだけで十分なプレッシャーになります」

 2009年11月、過労自殺で夫を亡くした寺西笑子さんが、長妻厚生労働大臣に対し、過労死・過労自殺のあった企業名を公表するよう文書で要請するとともに、企業名の開示を求める情報公開請求訴訟を大阪地裁に提訴し、現在、審議中だ。

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