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社会にとって「微インフレ」がいい

一色清

一色清

 私は吉野家が割と好きでした。テレビに出るようになってから、自意識が発達し、吉野家から足が遠ざかっていますが、それ以前は「特盛りでつゆだく」をよく食べていました。

 先日、吉野家ではありませんが、松屋に初めて入りました。大学生の娘と会う用事があり、「素早く昼飯を食べよう」と言うと、娘が松屋に連れて行ってくれたのです。松屋が安いとは知っていたのですが、食券販売機の前に立って改めて驚きました。牛丼は250円、あとのメニューも安いこと、安いこと。結局牛丼と野菜セット(サラダ、生卵、みそ汁)計390円の食券を買いました。「安かろう悪かろう」という言葉が頭をかすめ、味は期待薄だと思いましたが、ところがどっこい、吉野家に遜色ありません。量も十分です。娘は「貧乏な男子学生は松屋で生き延びている」と言います。

 私が入ったのは松屋ですが、すき家も吉野家も同じレベルの値段で競争しています。消費者にはありがたいことです。でも、経済を目先の消費者の利益だけで語ってはいけません。経済全体では、喜べないこともあります。

 私は、物価下落には「いい物価下落と悪い物価下落」があると思います。「いい物価下落」とは、規制とか談合とか非効率な仕組みとかによって高止まりしていた物価が、規制緩和とか談合排除とか効率的な仕組みとかに変わることで下がることです。

 例えば、かつては酒は、国税庁が厳重な免許管理をしていて、かぎられた店でしか売ることができませんでした。そして「酒税徴収のため」として安売りは御法度でした。しかし、これに反旗を翻した一部の店が消費者を味方に付けて「安売り」をはじめ、結局、国税庁も「安売り」を黙認し、免許の取得条件などの規制も緩和されました。こうして1990年代前半に酒は劇的に安くなりました。

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