藤井英彦(ふじい・ひでひこ) 株式会社日本総合研究所 調査部長/チーフエコノミスト
【退任】(株)日本総合研究所 理事/チーフエコノミスト。83年東京大学法学部卒業。同年住友銀行入行。90年より(株)日本総合研究所、11年から現職。共著に「オバマのアメリカ 次なる世界経済の行方」(東洋経済新報社)、「2006 図解 日本総研大予測」(徳間書店)、「図解 金融を読む辞典」(東洋経済新報社)。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
藤井英彦
雇用拡大が政策課題として急浮上している。経済政策の主目的だから当然だ。
戦後わが国の雇用は景気が良くなると増え、さらに規制緩和や制度整備が進むと増加した。そうした経験則に照らせば、景気対策を打つと雇用が増え、さらに、例えば医療介護制度を整備すれば新たな分野で雇用が増加する筋合いだ。
しかし今日、過去の経験則は通用しなくなった。わが国経済を巡る環境が大きく様変わりしたからだ。2002年以降の推移をみれば明瞭だろう。
わが国経済は2002年1月を底に07年10月まで6年弱という戦後最長の景気拡大を果たしたものの、その間、就業者数は6,365万人から6,400万人へ35万人しか増えなかった。内訳をみると、正規雇用から非正規雇用へのシフトが進行した。非正規雇用は1,406万人から1,738万人へ332万人増え、正規雇用は3,486万人から3,418万人へ68万人減った。そうしたなか、雇用者所得は景気回復下にも拘らず268兆円から263兆円へ減少した。
背景には中国やインドなど新興国経済の飛躍的成長がある。
新興国が低価格を武器に強力な競争相手として急速に台頭したという情勢変化だ。わが国企業は一段のコスト削減に迫られ、生産拠点の海外シフトに拍車が掛かった。一方、海外から国内への輸出攻勢も激しさを増した。それらの結果、国内需要が海外へ漏出する傾向が強まり、経済対策の景気浮揚効果や制度整備の雇用創出効果は後退に向かい始めた。
そうした認識は一見正しいように見える。仮に正しいとすれば、多くの先進国がわが国同様、深刻な事態に陥っていた筈だ。先進国は新興国の低価格攻勢に直撃されるからだ。しかし、2000年代に入り、そうした先進国は見当たらない。金融バブルや不動産バブルで潤った米英やスペインを除いても多くの西欧各国は底堅い成長と所得増加を享受した。
西欧各国も新興国の攻勢を受けた。違いは成長戦略にある。主なポイントは三つだ。
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