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「真のパートナー」経済圏の拡がりと日本

武田洋子

武田洋子 三菱総合研究所チーフエコノミスト

 10月下旬に開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議では、「通貨安競争」が重要なキーワードとなった。しかし、筆者は「通貨安競争」との表現自体、必ずしも適切ではないと感じている。先進国は、自国通貨を介入によって安く誘導している訳ではない。米国も財政政策の余地が限られる中、景気の二番底入りを回避するために、どうしても金融政策に頼らざるを得ない。その結果、米連邦準備制度理事会(FRB)が大幅な追加緩和に踏み切るのではないかとの市場の期待が強まり、ドルが全面的に主要通貨に対して下落してきた。

 一方、一部の新興国は、政府の市場介入などによって自国通貨の変動を抑制している。しかし、こうした動きは、ここへきて始まったわけではない。とくに中国は、08年7月以降、事実上の対ドル固定相場制を維持し、本年6月に弾力化の方針を示した後も人民元の上昇率を小幅にとどめてきた。足元では、一部新興国が、過剰な資金流入を懸念して、課税や規制を強化する動きはみられるが、過度に投機的なマネーを抑制しようとする動きと捉えることが出来る。

 もっとも、先進国経済の脆弱性が際立つ中、先進各国の政府が輸出促進を狙っているのは事実であろう。実際、オバマ政権は、今後5年間で輸出を倍増させる計画を打ち出している。輸出先のターゲットとなるのは、アジア太平洋地域を含めた新興国市場であろう。ユーロエリアも、域内の財政問題を抱え、南欧諸国を中心に厳しい財政再建の実施を余儀なくされており、新興国市場を中心とする輸出の増加が成長の頼みの綱となっている。

 わが国も例外ではない。エコカー補助金やエコポイント制度など、これまで内需を支えてきた政策効果が徐々に剥落する中で、経済が回復基調を維持できるかどうかは、輸出の動向、なかでもアジア向け輸出の動向に大きく依存している。

 こうした中、アジア太平洋地域では一層の市場の拡大期待を背景に、近年、二国間や地域間の貿易自由化や経済連携の動きが活発化している。その一つが環太平洋パートナーシップ協定(TPP)である。TPPとは、06年にシンガポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリの4カ国によって発効した経済連携協定である。15年までに、参加国が原則100%関税を撤廃するとされている。現在では、米国、オーストラリア、ペルーが参加を、ベトナムはオブザーバーとしての参加を表明しており、米国とアジア太平洋地域との結びつきが強化されようとしている。

 ところが、

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