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農業界の敗退と農業の勝利 政府のTPP対処方針を読み解く

山下一仁

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 TPP(環太平洋パートナーシィップ協定)や日豪や日韓のEPA(経済連携協定)交渉等に対する政府の考え方を示した「包括的経済連携に関する対処方針」が11月6日に決定された。

 1週間程度海外に出張して10日に帰国したとたん、私はたくさんのマスコミの方々からこの対処方針をどう評価するのかというインタビューを受けた。TPPについて、「その情報収集を進めながら対応していく必要があり、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始する。」という表現について、関係国との協議開始は明記したものの、参加の判断を先送りしたことを不十分だとしているようだ。

 そうなのだろうか?役人のはしくれとして政府の作成する文章にかかわった者として評価すると、これは自由貿易推進派の大勝利である。

 我が国が大きな外交的な決断を明確に行うことができるのは、飲むか飲まないのかをせまられるぎりぎりの局面である。8年もかけたガット・ウルグァイ・ラウンド交渉は1993年12月15日に終了したが、細川総理が米の部分開放を含む合意全体の受け入れを表明したのは、その前日の14日だった。今回はAPECで総理がどう発言するかという点で11月上旬に対処方針を決める必要があるというだけで、のるかそるかの明確な決断を迫られるような局面ではなかった。農業界が大反対している以上、表現があいまいとなるのは当然である。

 そのなかで100%近くの品目を例外なく対象とするTPPについて関係国との協議開始を明記したことは画期的なことである。これを踏まえてAPEC首脳会議で総理はTPPに前向きな発言を行った。各国とも議長国日本の貿易自由化に対する積極的な対応を評価しており、国際的にもコミットしたと受け止められたようだ。我が国の農協や農水省などの農業界は、情報収集や協議の結果参加しないこともありうるという身内への主観的な説明は一応可能ではあるが、客観的に見ると内堀も外堀も埋められた大阪城のような状況である。

 TPPだけではない。自民党政権下では日豪や日韓のEPAも止まっていた。これについて、

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