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「年金マガジン―ネット探検隊が行く」vol.1 改革は一体どこへ

松浦新

松浦新 朝日新聞経済部記者

 菅直人首相が「社会保障・税一体改革」を掲げて「ねじれ国会」に臨んでいる。政治的思惑があるかもしれないが、国民にとっては大切なテーマだ。いったい何が問題で、何をどのように変えたらいいのか。社会保障をめぐってはネット上に様々なデータがある。WEBRONZAのバーチャルな「ネット探検隊」に志願した会社員3人が調査に乗り出した。

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 【ネット探検隊】年金の現状や改革の方向性をネット上のデータを探索しながら明らかにしていく。隊長、隊員は以下の3名。

 隊長:香川年男 1973年生まれの37歳。バブル崩壊後、阪神大震災の年に社会に出た。

 隊員:本田景子 1985年生まれの25歳。リーマン・ショック前の平成ミニバブル期の採用。

 隊員:岡崎金人 1947年生まれの63歳。団塊世代の先頭集団で、定年も嘱託として働く。

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 香川 なんか年金改革をめぐる状況がよくわからなくなっているなあ。そもそも、民主党は政権を取った選挙のマニュフェストで、基礎年金を国民共通の最低保障年金にして、財源は税金だと言っていたよね。いまさら、何を言い出すんだろう。

 岡崎 なんかおかしいね。菅さんは私よりひとつ年上だから、昔から応援してきたんだけど、政権を取ってからどうもさえないなあ。

 本田 どれどれ、菅さんの公式ホームページを見てみましょうか。本当だ。今年、65歳だから『前期高齢者』ですね。前官房長官の仙谷由人さんも菅さんと同じ1946年生まれ。民主党幹事長の岡田克也さんは1953年生まれだから、ちょっと若いわ。与謝野馨さんは1938年生まれだから、そろそろ『後期高齢者』ですね。

 香川 自分たちの問題として取り組んでくれればいいけど、現役バリバリって感じている人たちだろうから、どうかなあ。

 本田 その点、枝野幸男官房長官はまだ40代半ばだから、私たち々の立場で考えてくれないかしら。政治の世界は年功序列が強そうだけど、団塊世代なんかに抑え込まれずに、しっかり主張してもらいたいわ。

 岡崎 何を言ってるんだ。団塊世代が頑張ったからいまの君たちの生活があるんだよ。団塊世代は、むかしの60代とは違う。厚生労働省の生命表を見てみよう。60歳の平均余命は男で23年、女で28年もある。65歳が前期高齢者なんてとんでもない。男女とも世界最高レベルの平均寿命の国にいることを忘れてもらっては困るな。

 香川 まあまあ、2人とも落ち着いて。そろそろ本題に入りましょう。まず、昨年12月14日の閣議決定に政府の姿勢が出ていますね。

 本田 書いてあることは『みんなで話し合いましょう』ということね。ねじれ国会だから、こうでも言わないと動かないですよね。具体的なのは『社会保障・税に関わる番号制度』ぐらいかしら。これはどうしてもやりたいみたいね。これを読むと、民主党の税と社会保障の抜本改革調査会』の『中間整理』も見たほうがいいわね。

 岡崎 中間整理は要約すると、消費税を社会保障財源にするということだね。改革の方向性としては『全世代を通じた安心の確保』を一番にあげているけれど、消費税は『高齢者3経費を基本』と書いてあるから、年金、医療、介護の財源確保が最大のテーマと読めるね。

 本田 それは、誰がやってもそうなるでしょう。財務省が出している平成23年度予算のポイントを見てください。1ページの収入にある「公債金」が44.3兆円にもなっているわ。19ページにあるように、3年連続で税収を上回る異常事態です。17ページにあるけど、基礎年金の国庫負担割合が問題になって、年金給付費の6分の1にあたる2.5兆円を捻出するのだって大変で、例によって『埋蔵金』で埋め合わせましたよね。財務省の消費課税の概要によると、消費税は10兆円弱です。仮に、税率が今の倍の10%になっても、10兆円出てこればいいほうです。それでようやく、借金が4年前の水準になるわけですから、新しいことなんてできませんよ。

 香川 結局、高齢者のための財源対策が中心で、いろいろ書いてあるけれど、絵に描いたもちかもしれないね。まだ働ける世代は、自助努力かな。新卒一括採用なんかは、雇用慣行を変えたほうがいい面もあるから、金があれば解決する問題ばかりではないね。それは高齢者も同じだろうから、財源確保ばかりでなく、給付も見直して欲しいな。

 本田 ポイントはやっぱり団塊世代です。厚労省の人口動態統計のうち人口動態総覧を見てください。団塊世代は岡崎さんが生まれた1947年からの3年に生まれた人たちが中心で、当時は年間270万人が生まれました。最近は年間110万人を切っていますから、この3年間だけでもいまの8年分ぐらいの人が生まれています。団塊世代はいま、60歳代前半ですから、岡崎さんのように元気で働いています。年金も『満額』をもらっていない人がいます。でも、あと5年もすると、60歳代後半ですから、病気も増えるでしょうし、年金も全員が満額をもらうことになります。いまのままでは日本が倒産しかねません。

 岡崎 人のことをお荷物みたいに言ってほしくないな。年金の支給開始年齢を見てくれるかい。我々が60歳になる少し前から支給開始年齢の繰り上げが始まっている。私が60歳になった時には、この『報酬比例』という部分しかもらえなくて、今年の誕生日がきて、ようやく満額になる。2006年の厚生労働白書によると、これは1980年の年金改正から検討されている。なんか我々の世代がねらい撃ちされているような気がするよ。通産官僚だった堺屋太一さんが『団塊の世代』を月刊誌に発表したのが1975年で、この時には年金や医療費の問題が指摘されている。政府は用意周到なんだよ。

 本田 私が制度を作ったら、団塊世代が受給を始める前に支給開始年齢を65歳まで引き上げておきますね。なんとかしようとしたけど、間に合わなかったということじゃないかしら。私たちは65歳になるまで1円も年金を受け取れませんから、恵まれているとも言えますね。私たちはもしかすると、さらに支給開始年齢が上げられるかもしれませんしね。

 香川 こうやって見てくると、堺屋さんの予言は当たったとも言い切れないところがあるね。確かに、団塊世代の問題は、今後、深刻な問題だけど、その前に日本は追い詰められてしまっているわけだよ。この日が来ることをわかっていながら、あと数年というところで、『みんなで議論しましょう』なんてことを始めているわけだから。消費税を上げるというけど、そんなに簡単にいくのかなあ。

 岡崎 1月14日の菅首相の記者会見でがっかりしたのは、民主党の年金制度改革案について、『3年、5年経過をする中で、現実の人口構成の変化は、極めて急激なものがあります』と言ったことだったなあ。別に疫病で大量に死者が出たりしたわけではないわけで、こうなることは何十年も前からわかっていたことだ。そんな認識もなしに年金制度の議論をしてきたのかと思うと残念で仕方がない。菅首相は、参院選前に、消費税を上げる時には国民に信を問うと言っていたわけで、これは守ってほしいな。

 本田 でも、いまの支持率で解散するということは、自殺行為みたいなものですよ。このまま、ずるずると衆院の任期近くまで粘ると、2年が過ぎてしまうわ。選挙をしてから消費税引き上げとなると、準備期間だって必要だし、団塊世代の問題に火がついてしまいます。民主党が選挙で負けることも十分に考えられて、その場合は、新しい政権が増税を決断できるかしら。

 香川 そのシナリオだと日本の財政は破産するね。そうならないためにも、議論を深めて欲しいな。それには理念だけで議論をしても意味がない。きちんと具体的なデータを見て話を進めよう。『高齢者3経費』はいずれも金がかかるけれど、中でも金がかかる年金について、次回から詳しく見ていくことにしよう。                (次回に続く)

※ ご意見・感想などを筆者にお寄せください(matsuura-s@asahi.com)

◆記事中に出てきた情報源◆

菅直人首相の公式ホームページ http://www.n-kan.jp/profile/

仙谷由人前官房長官の公式ホームページ http://y-sengoku.com/02prof.html

岡田克也民主党幹事長の公式ホームページ http://www.katsuya.net/profile/

与謝野馨経済財政担当相の公式ホームぺージ http://www.yosano.gr.jp/profile/keireki.html

枝野幸男官房長官の公式ホームページ http://www.edano.gr.jp/profile.html

厚生労働省の生命表 http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life09/01.html

平均寿命の国際比較 http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life09/03.html

昨年12月14日の閣議決定 http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/kakugikettei/101214.pdf

『税と社会保障の抜本改革調査会』の『中間整理』 http://www.dpj.or.jp/news/files/101206zeitosyakaihosyo_point.pdf

平成23年度予算のポイント http://www.mof.go.jp/seifuan23/yosan001.pdf

消費課税の概要 http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/100.htm

厚労省の人口動態統計 http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suikei10/index.html

年金の支給開始年齢 http://www.sia.go.jp/seido/nenkin/shikumi/kaishi.pdf

2006年の厚生労働白書 http://wwwhakusyo.mhlw.go.jp/wpdocs/hpax200601/b0099.html

堺屋太一氏の『団塊の世代』 http://www.bunshun.co.jp/cgi-bin/book_db/book_detail.cgi?isbn=9784167193201

菅首相の1月14日の記者会見 http://www.kantei.go.jp/jp/kan/statement/201101/14kaiken.html

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筆者

松浦新

松浦新(まつうら・しん) 朝日新聞経済部記者

1962年生まれ。NHK記者から89年に朝日新聞社に転じる。経済部、くらし編集部(現・文化くらしセンター)、週刊朝日編集部、特別報道部などを経て、現在は東京本社報道局経済部に所属。年金、医療をはじめとした社会保障制度に関心を持つ。金融商品や土地・住宅問題など、くらしと経済に関わる問題に関心がある。

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