松浦新
2011年02月07日
WEBRONZAのネット探検隊が年金制度を改めて調べることになった。まずは現状を知ることが必要だ。具体的な支給額はどのように決まるのか。いよいよ、具体的な調査が始まった。
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【ネット探検隊】年金の現状や改革の方向性をネット上のデータを探索しながら明らかにしていく。隊長、隊員は以下の3名。
隊長:香川年男 1973年生まれの37歳。バブル崩壊後、阪神大震災の年に社会に出た。
隊員:本田景子 1985年生まれの25歳。リーマン・ショック前の平成ミニバブル期の採用。
隊員:岡崎金人 1947年生まれの63歳。団塊世代の先頭集団で、定年後も嘱託として働く。
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香川 年金というと、難しいというイメージがありますね。岡崎さん、実際にもらっていて、どうですか。
岡崎 おれはまだ、「特別支給の老齢厚生年金」しかもらっていないからなあ。社会保険事務所で計算してもらった通りにもらってるよ。いまは年金事務所というんだよね。
本田 この年金のパンフレットの5ページの図ですね。特別支給なんて、もったいつけますね。本当は出せないんだけど特別に支給してやるって、お上意識丸出しだわ。それを「得する年金」なんて、普通はもらえない年金みたいに表現して、売り物にした週刊誌があったわね。要件を満たしていれば誰でももらえるのに、おかしなイメージが広がってると思いますね。
香川 2001年に支給開始年齢の引き上げが始まった時には、年金のことがずいぶん話題になって、ハウツー本もいろいろ出たね。パンフレットにもあるけど、支給開始年齢が引き上げられる対策で、前倒しでもらえる制度なんかも始まって、それがまた難しかった。いろいろ混乱したのを覚えてるよ。「特別支給」はもらうのが当たり前で、もらわずにとっておいても金利がつかないどころか、5年で時効になってもらえなくなる。もらわないと「損する年金」になってしまうことは改めて確認しておきたいですね。
岡崎 よほど困っていなければ、前倒しで受給するのもやめたほうがいい。前倒しは、平均余命より長生きすると損をする仕組みになっている。素直に「特別支給」をもらって、「老齢厚生年金」と「老齢基礎年金」をもらえばいいんだ。年金は「貯蓄」ではなくて「保険」だからね。保険というのは、予期せぬことが起きた時に備えるものだ。年金保険の「予期せぬもの」は、長生きして貯蓄がなくなることだよ。終身で支給がある国の年金はありがたい。
本田 そうですね。ところで、岡崎さんは働いているけど、年金は減らされていないんですか。
岡崎 いまはまだ、「報酬比例部分」しか出ていないからね。それを減らされない範囲で働かせてもらっています。
本田 なんかいじましいですね。「サラリーマンの妻」みたい。もっと働いて年金財政に貢献したらいいじゃないですか。
香川 えーっと、「老齢厚生年金」とか「老齢基礎年金」とかって言葉がありましたね。なぜ、こんなに分かれているんでしょう。
岡崎 ようやく本題に入る感じだな。日本年金機構のホームページに行ってみよう。このページの真ん中あたりから、「厚生年金保険」の説明がある。その(2)が、おれがもらっている「報酬比例部分」だ。面倒くさそうなことが書いてあるよな。面倒な計算式が年金の苦難の歴史を物語っている。できるだけわかりやすく説明するから、我慢して聞いてくれ。肝心な部分をここに書き出そう。
報酬比例部分の支給額=(1)平均標準報酬月額×(2)報酬比例部分の乗率×加入月数
これが基本形だ。「標準報酬月額」というのは、だいたい、月給の額だと理解してもいい。平たく言うと、現役時代の平均の月給と加入期間で決まるということだね。そこに(2)の「乗率」が関係してくる。ここで支給額をコントロールしているんだ。この表を見てほしい。数字ばかりでいやになるね。ここで見るのは「物価スライド特例水準の・・・」という列だ。いまは「特例」のほうが使われている。
本田 年金って、「特別」とか「特例」ばかりですね。
岡崎 要するに、厚労省の思惑通りに行っていないということだね(笑)。表に戻って、「平成15年3月までの・・・」というところの数字を見てほしい。昭和12年4月1日までの生まれの人は「10」になる。そして、一番下に行って、昭和21年4月2日以降は「7.5」になっている。
本田 これって、乗率が4分の3に落とされているわけだから、同じ平均月給でも、生まれた年によって25%もカットされているってことかしら?
岡崎 さずが、本田君、ナイシュー。
本田 いやだあ。信じらんない!
岡崎 それも、団塊世代がねらい撃ちだ。表の「特例」ではない列は、2000年の年金改革で登場した乗率だ。「10」が「9.5」になっているから、全体的に5%カットということだよ。これが実現されていない理由については、改めて説明するけど、2000年の年金改革のねらいがはずれたことを象徴しているね。「平成15年4月以降の・・・」についても、順を追って説明しよう。
香川 ホームページには、この表も載っていますね。
岡崎 また、「特例」の表だね。同じ事情で、使われていない「本来の表」もある。関心があったら、後ででも見ておいてよ。この表の説明をすると、昔の給料は、いまの水準より低いよね。それをそのまま使って平均月給を出すと、年金額が低くなってしまう。だから、昔の給料の記録を、いまの給料の水準に置き直して平均月給を出すことになっている。
香川 保険料をいくら払ったかなんて関係ないんですね。
岡崎 まあね。ただ、この「標準報酬月額」は保険料の計算の分母になる。この月額に、保険料率をかけて納める保険料が決まる。ただ、年金額の計算には月額が使われる。だから、年金記録問題で問題になったのは、昔の給料の記録だった。もらっていた給料が高い人ほど、この報酬比例部分が多くもらえることになる。
本田 なんか、合点がいきませんね。民間の保険であれば、保険料をいくら払うかで、もらう年金額も決まりますね。いくら給料をもらっているかなんて関係ないじゃないですか。
岡崎 そこが公的年金との違いだよね。発想として、現役時代の生活水準のどのくらいまでを保障するかという考え方があるんだよ。
本田 でも、団塊世代以降は25%も年金をカットされてもいいんですか?
香川 そこにも、時代的な背景がありそうだね。それは次回に見ることにしよう。
(次回に続く)
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◆記事中に出てきた情報源◆
年金のパンフレット http://www.nenkin.go.jp/pamphlet/pdf/02_01.pdf
年金の計算方法 http://www.nenkin.go.jp/main/individual_02/rourei/index.html
報酬比例部分の乗率 http://www.nenkin.go.jp/main/individual_02/pdf/02-1.xls
月給の再評価率(特例) http://www.nenkin.go.jp/main/individual_02/pdf/01-3.xls
月給の再評価率(本来) http://www.nenkin.go.jp/main/individual_02/pdf/22_01.xls
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