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「ニコ生シノドス」第2回「大丈夫か!?日本の食と農」

飯田泰之×川島博之×浅川芳裕

 気鋭の若手研究者集団、シノドスによるニコニコ生放送、「ニコ生シノドス」第2回のテーマは「大丈夫か!?日本の食と農」。日本の農業は危機に瀕している、といわれています。過去30年間で自給率の向上を果たした欧州各国とは対照的に、我が国の食糧自給率は約40%にまで低下。その傾向に追い打ちをかけるように、途上国の経済発展に伴って世界の食糧需給は逼迫し始めており、貿易による食糧調達が困難になる日も近い……といった指摘を多く見聞きします。

 果たして日本の食、そしてそれを生み出す農の危機とは何なのか。そしてその改善のための方策はあるのか。こうした「問い」に応答するべく、食と農に関する僕たちの常識を覆してくれる二人の論者をお迎えし、徹底的に語っていきます。(2010年10月31日放送、メールマガジン「αシノドス」vol.66+67、vol.68から転載)

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 司会:飯田泰之(エコノミスト、駒澤大学准教授)/ゲスト:川島博之(東京大学大学院准教授)、浅川芳裕(月刊「農業経営者」副編集長)

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 ■飯田泰之(いいだ・やすゆき) 1975年東京生まれ。エコノミスト。東京大学経済学部卒業。同大学院博士課程単位取得退学。現在、駒澤大学経済学部准教授。内閣府経済社会総合研究所、財務省財務総合研究所客員研究員。専門は経済政策、マクロ経済学。著書に『経済学思考の技術――論理・経済理論・データを使って考える』、『考える技術としての統計学―生活・ビジネス・投資に生かす』、共著に『昭和恐慌の研究』(第47回日経・経済図書文化賞受賞)、『脱貧困の経済学』など。

 ■川島博之(かわしま・ひろゆき) 1953年東京生まれ。77年東京水産大学卒業、83年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得退学。東京大学生産技術研究所助手、農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員などを経て、現在、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授。

 ■浅川芳裕(あさかわ・よしひろ) 1974年山口県生まれ。95年カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。ソニー・ガルフ社などに勤務後、農業技術通信社へ。月刊誌「農業経営者」副編集長、「Agrizm(アグリズム)」の発行人、「ポテカル」編集長を兼務。農業総合専門サイト「農業ビジネス」編集長、みんなの農業商品サイト「Eooo!(エオー)」の運営責任者でもある。

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【小見出し一覧】

 事業仕分けにも登場した食料自給率とコメ備蓄問題/カロリーベースだけが注目される「食料自給率」/戦中・戦後に飢えた「国民的記憶」が残る日本/世界的な食糧危機は来ない!?/米国の「兵糧攻め」もソ連に効果なし/カロリーベースの自給率が低くなるカラクリ/農業でも「国際的分業」が起きている/世界の穀物市場はだぶつき気味/人口増加よりも農業の技術発達が早い/バイオエタノールも余剰穀物の値崩れを防ぐだけ/儲かるならコメより花をつくれ/「一生同じ作物」ではなく、葬儀用の花をつくれ/7%が6割を生産し、6割が5%しか生産していない/社会的使命を終えた農水省の「雇用問題」/穀物生産は世界的に儲からない/自然が豊かな日本は農業に向いている/ジャガイモ、イチゴが強い/コメとコメ以外を区別して考える/コメ農業が赤字化しやすい理由/コメ農業への保護は必要か?不要か?/日本は「オランダ型農業」を目指せ/「6次産業」なら海外へも売り込める/コメ農家への個別所得補償は「史上最悪」/起業家精神で付加価値を生み出せ/世界の農業は「日本化」している?/いよいよ質問コーナーへ!/両極端な議論が横行している/クマやイノシシの被害にどう対処するか/地球温暖化も品種改良で対応できる/農業人口の減少は人類史的な課題/小麦は日本に向かない?/遺伝子組み換え作物のリスクをどうみるか/日本の農業問題はJA(農協)問題に行き着く/日本が世界のジャポニカ米市場をリードせよ/農業と不況の関係/農業に新規参入する人へのアドバイス(全6ページ、約3万2千字)

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◇事業仕分けにも登場した食料自給率とコメ備蓄問題◇

飯田 こんにちは。「ニコ生シノドス」第2回は「大丈夫か?日本の食と農」というタイトルで、私、飯田泰之が司会でお届けします。第2回に「食と農」という、どちらかというとこれまでシノドスが触れてこなかったテーマを設定したのは、事業仕分け(第3弾)の4日目、食の安全が大きな話題になったためです。事業仕分けの個別の話題としては、コメの備蓄問題があがりました。現在、大規模な予算をかけてコメが備蓄されていますが、この制度は本当に必要なのか。しかし、それがないと1993~94年の極端なコメ不足が再来してしまうのではないか。そうした議論です。

 事業仕分けでは、食料自給率がずいぶん下がっているが、何らかの形でこれを回復する必要があるのではないか、という話題が出ました。コメの備蓄に大規模な予算を使っているが無駄ではないか、という指摘がありましたが、これに対して農水省は強く反発しています。というのも、私自身が大学1年生の時に、ほとんど国産のコメが手に入らず、タイなどから輸入米を買ってしのがなければならない事態が起きました。日本国内の天候不順などでコメの生産量が落ちた時、こうした事態を防ぐためには、やはり備蓄の継続が必要ではないか、いや不要だ、という議論が闘わされてきました。

 さらに現在、農業と貿易との関係で大きな話題となっているのが、環太平洋経済連携協定(TPP)への日本の加盟問題です。標準的な参加方法では、農作物への関税撤廃が加盟の一つの条件になると言われています。しかし、自由貿易協定(FTA)への日本の加盟は、農業が一つのハードルになって非常に遅れています。農業が工業製品の貿易協定のハードルになっているわけです。そこで、ニコ生シノドスでも「日本の食と農」の問題を取り上げるべきだと考えました。

 今回の話題にふさわしいゲストをお二方、お迎えしています。一人目は、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授の川島博之さんです。川島さんのご専門は、開発経済学や農業経済学などの手法を応用した環境負荷の研究、またバイオマス・エネルギーなどの代替資源の研究です。川島さんが文春ペーパーバックから出した『食糧危機を煽ってはいけない』は、出版されてまだ約1年半ですが、すでに食料問題を語るときのスタートラインを提供する「古典」となっています。川島先生、よろしくお願いします。

川島 こちらこそ、よろしくお願いします。

飯田 もう一人は「月刊農業経営者」副編集長の浅川芳裕さんです。よろしくお願いします。

浅川 よろしくお願いします。

飯田 浅川さんが講談社現代新書から出した『日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率』は、サブタイトルに「食料自給率」が入っていますが、早くも10万部を突破したそうです。この本をきっかけに、農業に関する議論や論争が深まっていくことが期待できると思います。浅川さんは評論活動を中心にしているわけではなくて、「農業経営者」という雑誌の編集以外にも農業経営の改善の提案など、実際に農業の現場を見て実務的な提言をされています。

浅川 はい。「農業経営者」は日本唯一の農業経営の雑誌で、農業でどうやって儲けていくかを紹介する雑誌です。

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飯田 何万部ぐらい出ているのでしょうか。

浅川 1万部です。

飯田 農業雑誌としてはかなり大きい部数ですね。

浅川 この雑誌の読者だけで年間数千億円の売上を稼いでいて、日本の農業の1割から2割を占めています。また、若手向けの農業雑誌「アグリズム」もつくっていますが、こちらは3万部。宣伝ばかりで申し訳ないのですが、ジャガイモの専門誌も毎月出しています。

飯田 そういう雑誌があることにびっくりします。

浅川 細かく見れば農業には、まだまだいろいろなビジネスのチャンスがありますよ。

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飯田 浅川さんはカイロ大学出身ですね。カイロ大学というと小池百合子ぐらいしか思いつかないのですが。

浅川 サダム・フセインとかアラファト議長もOBです(笑)。

飯田 名門ですね(笑)。

浅川 いい先輩がたくさんいます(笑)。

◇カロリーベースだけが注目される「食料自給率」◇

飯田 日本の食と農は危機にあるのか、そしてどのような改革が必要なのか。さっそく議論にうつります。最初の話題は、浅川さんの著書のタイトルにもある「食料自給率」です。私はこの番組の司会をやることになるまで、「ショクリョウ自給率」の漢字を、完全に間違えて「食糧」と覚えていました。ところがよく見てみると「食料」が正しい。その「食料」自給率には4つあって、(1)生産額ベースの食料自給率、(2)主食用穀物ベースの食料自給率、(3)カロリーベースの食料自給率、(4)穀物ベース(飼料を含む重量ベース)。最も注目されるのは(3)のカロリーベースです。それから、1965年以降の食料自給率の推移を少し長期的に見てみると、94~95年に大幅に下がっています。これは不作でコメを海外から緊急輸入したための落ち込みです。

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川島 有名な(3)カロリーベースの食料自給率を説明します。例えば日本で生産された和牛を食べた場合でも、エサのトウモロコシが国産か海外からの輸入かどうかで区別します。国産の牛肉でも、もし海外から輸入したエサを食べて育ったとしたら、カロリーベースでは自給率0%とカウントされます。

飯田 (1)生産額ベースの食料自給率はどうでしょうか。

川島 これは、日本の農業生産額と海外からの農産物の輸入額を比べた食料自給率で、4つの食料自給率のなかで最も高い数字となります。牛に食べさせるトウモロコシの値段は安くて、国産が主体の野菜や肉、コメは比較的単価が高いので、金額で見れば日本の食料自給率は高くなります。

飯田 現在の食料自給率は、(1)生産額ベースだと約70%。昭和40年に比べて少し下がりましたが、カロリーベースほどの急激な下がり方ではない。

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川島 横ばいと見てもいいですね。これは、日本の農業が、単価の高い農産物の生産に特化していることをあらわしていると思います。

飯田 (4)の重量ベースも含めて、食料自給率はどの数字を見ればいいのでしょうか。

浅川 そもそも、食料自給率を国の指標として発表しているのは世界で日本だけで、4つともほとんど意味がない数字です。世界では、マーケットをどれだけ作り出しているか、どれだけ農産物の価値を生み出しているか、つまり正味の生産額を指標としています。

川島 私も食料自給率には意味がないと思います。エネルギー自給率、各種資源の自給率のほか最近話題のレアアースも数字を出すことはできます。でも、なぜか食料自給率、とくにカロリーベースだけが40%という数字とともに流布して議論されるのは、どこかおかしいと思います。

◇戦中・戦後に飢えた「国民的記憶」が残る日本◇

飯田 ただ、私も含めてほとんどの人は、自分が口にしている食べ物の4割しか国内でつくっていないというイメージから、「何となく」不安です。これ以上、自給率が下がってしまうと、いざというときに日本人が飢えるのではないか、という感情的な不安。そのせいか、農水省が宣伝するカロリーベースの自給率だけがメディアでも話題となります。なぜカロリーベースだけが注目されるのでしょうか。

川島 私は、日本で食料自給率が注目されるのは、それなりの原因があると思います。というのも、日本は太平洋戦争中か戦後、とくに1945年(昭和20)秋から46年夏にかけて飢えました。その最大の原因は、若い人にはぴんとこないと思いますが、45年当時の日本陸軍が「本土決戦」のために40歳以下の男性を根こそぎ招集したせいです。それで労働力が非常に不足して、この年のコメの生産量も激減しました。夏に戦争が終わっても、5~6月は農作業もできなかったわけで、9~10月に収穫しようとしても不可能でした。しかし、日本人はもっと誇るべきですが、戦時中から続く配給精度がむしろ機能していたので、食料が足りなくなったら日本人が平等に飢えました。アフリカやアジアの貧しい国では貧しい人たちだけが餓死して、裕福な人が飢えることはないわけです。

飯田 コメントにあった「それって北朝鮮?」というのが正しいたとえかもしれません。

川島 そのため、日本人全員に等しく飢えた記憶があります。例えばインドなら、大学の先生、政治家やメディア関係者など比較的社会に影響がある人は飢えないでしょう。その点で日本は非常にいい社会だと思いますが、比較的上流の人も等しく飢えてしまい、その記憶が社会全体に非常に強く残りました。戦争が終わって60年以上になりますが、60代の人なら赤ちゃんの頃の飢えに対する記憶以前のトラウマがある。70代以上なら、はっきりとした記憶があるでしょう。

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飯田 戦中派の体験が国民的記憶として継承されているわけですね。「食料自給率が上がるのはどういうときか」という話について、浅川さんにお聞きしたいのですが。

浅川 いま40%とされる食料自給率の計算式を説明すると、これは率ですから分子と分母があります。分母が国産40%+輸入60パーセント。分子は国産40%です。自給率を上げようとして輸入をゼロにすれば、国産率が100%になる、という変な式です。

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飯田 つまり、貧しくて海外から輸入できないような鎖国状態になると、自給率は上がる。

川島 現在の北朝鮮なら自給率100%近くになるわけです。

◇世界的な食糧危機は来ない!?◇

飯田 何を輸入しているせいで自給率が下がっているのでしょうか。

川島 食料の輸入が止まる・止まらないというのは、まさに危機管理の問題です。こうしたリスクはゼロにはできない。「絶対起きないのか」と言われるとそうは言えない。自国を優先して日本に食糧を売ってくれないのではないか、という懸念も指摘されています。しかし、これから説明するように「世界的な食糧危機は来ない」と私は考えています。

 実は、日本が食料を輸入している相手国は、主に先進国です。例えば小麦の輸入先は、57%が米国、23%がカナダ、20%がオーストラリア。すべて先進国で日本との関係も良好です。トウモロコシは94%が米国、大豆も75%が米国、菜種は81%をカナダから輸入しています。米国、オーストラリア、カナダ、そしてブロイラーを輸入しているブラジルなどは世界有数の農業大国ですから、不作で輸出余力がなくなるような事態は過去数十年単位で起きていない。さらに、米国、カナダは北半球で、オーストラリア、ブラジルは南半球にあります。北と南、両方が同時に旱魃に襲われる可能性は、ゼロとはいえませんが、可能性は非常に低い。

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 もう一つ言えば、日本は小麦を米国やカナダ、オーストラリアから輸入していますが、もちろん他の国々でも小麦を輸出しています。特定の国から輸入しているのは高品質の小麦を安定的に買えるからです。つまり、少し品質が悪いものであれば他の国からいくらでも買えるわけです。また、主な輸入先が、政治的な理由で日本に売ってくれなくなる可能性もある、とよく言われます。でも実は、この「兵糧攻め」を過去にやった国があります。それは米国で、1980年に旧ソ連に向けて兵糧攻めをしました。

飯田 アフガン侵攻のときですね。

◇米国の「兵糧攻め」もソ連に効果なし◇

川島 そうです。ソ連崩壊の約10年前、79年にソ連がアフガニスタンに侵攻して、当時のカーター米大統領が激怒しました。80年前後のソ連は官僚的なシステムで、農業生産もうまくいかず、食料が慢性的に不足していました。そこで米国から小麦などを3千万トン規模で輸入していましたが、このウィークポイントを攻めればソ連が「参った」と言うに違いないと考えたわけです。ところが80年に禁輸した結果、FAO(世界食糧機関)の資料を読むと、ソ連は79年より80年に小麦を大量に輸入しています。

飯田 これは、「よそから買った」ということですね。

川島 そうです。

飯田 つまり、どこかの国は売ってくれる。日本が世界の国々を敵に回して海上封鎖されるケース以外、食料危機はほとんど起きようがない事態ですね。

川島 そう思います。世界的に穀物がだぶつき気味なのでソ連は他の国から輸入できました。これに怒ったのは、自分たちのお客さんを奪われた米国の農民と商社です。小麦は世界的にだぶついているので、急に新たな取引先を探しても簡単には見つからない。80年の大統領選では、共和党候補のレーガンが「禁輸をやめる」と宣言したことが、カーター再選を阻んだ理由の一つにあげられています。

飯田 意外に思う人がいるかもしれませんが、共産主義諸国に対して強硬だったレーガン政権であっても、米国の農業団体の政治力が日本よりも格段に強いので、農家や商社の商売に悪い影響がある禁輸はできませんでした。今後も不可能でしょう。食糧危機以前に、そもそも石油の輸入が止まったら日本はおしまいです。ですから、基本的に米国と戦争する状況は考えづらい。その点で、世界的食糧危機論は不思議です。残るリスクは、「世界中で全体的に需要が増えて、穀物価格が高くなるなら国内でつくったほうが得ではないか」という点でしょうか。お二人とも「食料自給率を上げる必要はない」「大して重要な指標ではない」という意見ですが、なぜ、先進国の中で日本のカロリーベースの自給率が40%と低いのでしょうか。

◇カロリーベースの自給率が低くなるカラクリ◇

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