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【竹信三恵子の直言】 「選ばれるための知恵」から「選ぶための知恵」へ

竹信三恵子

竹信三恵子 ジャーナリスト、和光大学名誉教授

 「選ばれる」から「選ぶ」へ、などと書くと、何をのんきなことを言っているんだと、求職中の若い世代から叱りとばされそうだ。

 企業を回っても、回っても、追い返されるつらい体験を続けてきた人たちには、苦労を知らない年長者の世迷い言としか聞こえないかもしれない。だが、男女雇用均等法前の「男子のみ」の求人がずらりと並ぶ中で、勝手にしやがれ、と腹をくくるしかなかった時代を体験してきた立場からみると、会社に選ばれる手段ばかりを教えるかのような今の社会のあり方は、やはり異様としかいようがない。

 「就活」に反対するデモを行った大学生が、「一番腹が立ったのは、企業と学生の立場があまりに片務的で、人を馬鹿にした態度をとられたことだ」と言っていた。エントリーシートは手書きで、と指定され、100社もの会社に手書きの書面を出さねばならなかった。一方、会社の方は「返事がなければ不合格」と高飛車な姿勢だったと彼は憤る。一斉メールの不合格通知で、しかも宛名が間違っていたこともあったという。

 会社の方も人員削減が進み、いちいちていねいに答えていられない、ということだろうが、それなら、大量一括採用という旧来型の手法を切り替えていくべきだ。だが、それを求める圧力はどこからも来ない。被害を受ける側の学生が、萎縮するばかりで、発信力を失っているからだ。

 反就活デモを呼びかけても「会社に嫌われる」と参加を渋りがちで、デモは違法と思いこんでいる学生も多かったという。だが、デモをやった結果、一過性であれマスメディアが飛びつき報道した。ブラジルの新聞社から来た記者には「ブラジルだったら暴動なのに」と首をかしげられた。発信したおかげで、さまざまな情報が集まり、日本の若者の現状を改めて考えるきっかけとなったという。

 仕事を持つために必要なのは、こうした様々な社会への働きかけの手法であり、働きかけの結果集まってくる社会知識や、見知らぬ人たちとのつながりであり、窮地に陥ったときの対抗手段の獲得だ。だが、

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