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 新日本製鉄と住友金属の経営統合は、規模の利益や価格交渉力の向上を通じて、経営基盤の強化が期待できる。さらに、統合後は、健全な財務基盤をベースに、新興国での生産や資源権益への投資などグローバル戦略をいかに成功させるかが鍵を握るだろう。

 日本の鉄鋼メーカーは、国内需要の伸び悩み、新興国の需要拡大への対応、世界の鉄鋼メーカーとの競争激化、原料価格の高騰といった大きな課題に直面している。両社が合併を決断したのも、欧州や中国の企業がプレゼンスを急速に高める中で、このままでは、地位を維持できなくなるという危機感が強まったためとみられる。

 一般に、合併の効果としては以下のような点がある。第一に、重複する部門の合理化や規模の利益によるコスト削減、第二に、シェアの上昇による価格交渉力の向上、第三に、それぞれの強みを生かすことによる補強とシナジー効果、第四にキャッシュフローの向上による新規投資と成長力の強化、である。

 日本の大手銀行のケースをみると、90年代終わりの銀行危機の際に大規模な再編を経験し、当時21行あった銀行のうち、2行は国有化され、残る19行は5つの金融グループに統合された。しかし合併の効果が十分に上がったとは言い難い。人員や店舗の削減は進んだものの、期待されたような収益力の改善やシナジー効果は実現していない。むしろ国内の貸出の減少によって収益基盤は弱まっている。

 また、当時合併によってIT投資の余力を拡大させ、国際的な競争に打ち勝つという構想はあったものの、その後の不良債権問題の長期化もあり、進展はなかった。とりわけ、合併が「対等合併」の形をとる場合、旧銀行間のバランスをとるために、合理的、迅速な判断ができにくくなる、といった弊害も見受けられた。

 新日鉄、住友金属については、おそらく銀行のような展開にはならないと思われる。銀行は規制産業であり、国内を中心に事業を展開しているが、大手鉄鋼はグローバルな競争や買収リスクによりさらされている。実際に、川崎製鉄とNKKの統合により、2002年に設立されたJFEホールディングスの場合も、早期にコスト削減が実現している。

 合併後は、川崎製鉄の生産管理と、NKKの優れた技術のシナジーにより競争力が向上した。今回の合併では、両社の規模がかなり異なるため、経営の一体化は比較的迅速に進むのではないか。ただし、韓国のポスコなどに比べて、見劣りのする効率性をどう改善させるのかは課題といえる。

 さらに重要な点は、合併によって増加するキャッシュフローを有効に活用し、投資と成長を実現できるかである。

 第1に、日本のメーカーの強みである高い技術力をさらに生かして、差別化製品の比重を高めることが必要だ。これは、収益性の向上だけでなく、長期的にみて国内の経済や雇用にもプラスとなりうる。

 第2に、資源会社間での再編、市場の寡占化が進み、原材料価格が上昇する中で、原材料調達の安定化を強化する必要がある。

 世界最大手のアルセロール・ミタルやロシアの鉄鋼メーカーなどは自社で鉱山を経営し、原材料の相当部分の調達を自社でまかなえるのに対し、日本の鉄鋼会社は自給率が低く、原材料の多くを外部から調達している。すでに鉱山権益への投融資などの対応をとっているが、そのための投資負担や、高い事業リスクなどを適切に管理していく必要がある。

 第3に、新興国での成長を取り込み、海外での事業投資を活発化させる必要もある。たとえばポスコはインドとベトナムで一貫製鉄所を立ち上げる方針であり、アセルロール・ミタルもアジアでの生産力を高めている。

 こうした海外での事業には、数千億円規模の投資資金が必要となるため、財務基盤を損なわずに投資負担を吸収するには、既存の事業の収益力を強化させることが重要となる。

 日本の事業会社間のこれまでの合併をみると、経営再建や、国内シェアの向上といった理由によるものが多く、グローバルな競争への対応、というケースは少なかった。しかし、今後は電機や自動車などのセクターでもグローバルな競争に背中を押された戦略的な統合が増える可能性もある。今回の合併の行く末はその試金石としても注目される。

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筆者

根本直子

根本直子(ねもと・なおこ) 早稲田大学 大学院経営管理研究科 教授/アジア開発銀行研究所、 エコノミスト

日本銀行、S&Pグローバル、マネージング・ディレクターを経て現職。主なリサーチ分野は、金融機関経営、日本およびアジアの金融市場、包摂的成長。 早稲田大学法学部、シカゴ大学経営大学院、一橋大学商学研究科、商学(博士) 主な著書に「韓国モデルー金融再生の鍵」「残る銀行沈む銀行―金融危機後の構図」 財務省 関税・外国為替等審議会委員、中部電力、コンコルディア・フィナンシャルグループ社外取締役、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF) 経営管理委員。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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