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[18]「火のないところに煙は立たない」 新検事総長の記者会見

大鹿靖明 朝日新聞経済部記者

 笠間治雄検事総長が2月28日、日本記者クラブで記者会見した。前任の大林宏氏が大阪地検特捜部の前田恒彦検事による証拠改竄事件など一連の不祥事で引責辞任し、検察建て直しのために笠間氏が急遽登板することになった。そのプロフィルから捜査現場を中心に歩んできた「現場派」と言われる。そんな現場派の笠間検事総長は、特捜部のむちゃで強引な捜査手法について、「取り調べを受けた人のほうから不満が出るようになったというのが、ここ数年ありました。火のないところに煙は立たない。そういう要素があるということを私は少々認識していました」と、かねてから問題があるという認識を持っていたことを明らかにした。

 以下、笠間氏の基調講演と会見の質疑を詳述する。

 司会者 笠間総長は、昭和23年の生まれで中央大を卒業し昭和49年に検事に任官、東京と那覇の地検、東京地検特捜部長、広島高検検事長、昨年12月に26代検事総長に就任されました。東京地検の特捜部には都合10年以上在籍し、現場一筋の検事総長です。

 

 笠間 昨年、大阪地検特捜部で証拠隠滅事件がおき、それに対して反省・再発防止策をどう進めていくのか、そのお話をさせていただきます。

 検察はいま、非常に批判にさらされています。何はともあれ、信頼回復に努めないとならないと思います。私は、信頼回復のために、大きく言うと二つの方向性があると思っております。

 

 一つは不適正だ、妥当じゃないといわれる捜査を二度としない。捜査の暴走を防ぐということです。

 

 二つ目は、暴走を防ぐだけでは、害はないけれど益はないという組織になってしまうので、捜査力をアップして真相の解明をやり損ねまたということがないように、捜査の力をつける。この両面から考えていかないとまずいと思っています。

 

 まず、暴走をさせないということの一つは2月23日に発表させていただいた特捜部捜査の一部録音録画がそれにあたります。さらに、本当に起訴していいのかどうか、起訴すべきかどうかもう一度チェックすべきです。

 

 それから、もう一つは、人事のあり方を考えないといけない。それから教育の問題ですね。検事にとってどういうことが大事なのか、それをやらないと暴走が始まります。

 

 では、まず最初の捜査の適正さについては、23日に特捜部の一部録音録画ということを打ち出しました。これは、全面可視化ではないのですね。まず被疑者についてやる。ということは参考人にはやらない。それから身柄事件についてやる。ということは在宅についてはやらない、ということですね。

 

 これに対しては実は、いろんなところからご批判を受けています。なぜ全部やらないのか、と。何か不都合か、と。そう言われます。

 

 ただし、私どもは全面録音録画をやらないというのは、何か隠したいことがあって一部の録音録画にとどめるというわけではないのですよ。

 

 それはですね、仮に一部でも録音録画をするようになると、不適切な捜査、特に取り調べですね、これが必ず根絶できると考えているのです。どういうことかといいますと、仮に一部でも録画を始めた以上、検察官のほうで勝手に録画を止めるということはしない。何か言いたいことありますかといって、もう止めていい、もう言うところはないです、というところで止めるということにするので、何か不都合な取り調べがあればそこで言われてしまいます。

 

 では、全部録音録画すると何か不都合なのかといいますと、やはり説得の過程を録るとなると、たとえばしゃべろうかどうか迷っている、さわりをしゃべります、まだ調書をとらないでね、大幅にしゃべるかちょっとしゃべるか迷っている人に、「はい、いまから録画しますよ」となると、「じゃあしゃべらないよ」となるかもしれません。だからオープンにするのはなかなか難しい。

 

 もうひとつは共犯事件のケースを考えましょう。共犯者5人捕まったときに、検察庁に出頭するときにしゃべらないようにしようと口裏をわせてきたのに、誰かがトップバッターでしゃべったということが後でバレたらどうするか。これが全部録音録画だとばれてしまう。

 

 机上の空論と思われますが、実際私も取り調べをしたときによく言われたのは「私が最初にしゃべったということは弁護人にも他の被疑者にも言わないでくださいよ、言わないならばいましゃべりますよ」ということが結構多いのです。調書をとろうとすると「まずいですよ。私がトップバッターとばれてしまうでしょう。頼むから調書は他の人がしゃべってからにしてくださいよ」と。確かにこの人が最初にしゃべったことがばれて、後でいじめられるということがある場合には調書を後にするということはあって、そういう捜査上のテクニックは全体可視化されるとできなくなってしまいます。

 

 次に、処分に対するチェックの強化というのがあります。これは、昨年最高検が打ち出した検証の中で、検事長指揮事件というのをつくると打ち出しています。それはどういうのかというと特捜部の事件について起訴・不起訴を決めるときに検事長の指揮を受けることにします、と。「そんなの意味あるの?」「いままでも決裁やっていたのでしょう、どこが違うの」といわれると思うのですが、いままでと違うポイントは、高検・最高検に特別捜査係検事というポストを設けるということにしたのです。

 

 この検事長指揮事件を制度として実施し、高検・最高検に特別捜査係検事を設けるというのは実は今日(2月28日)全国に訓令・通達することになっています。

 

 特別捜査係検事をおくというのはどういうことかというと、 ・・・ログインして読む
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筆者

大鹿靖明

大鹿靖明(おおしか・やすあき) 朝日新聞経済部記者

1965年、東京生まれ。早稲田大政治経済学部卒。88年、朝日新聞社入社。アエラ編集部などを経て現在、経済部記者。著書に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』を始め、『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』、『ヒルズ黙示録・最終章』、『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』、『ジャーナリズムの現場から』がある。近著に『東芝の悲劇』。キング・クリムゾンに強い影響を受ける。

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