松浦新
2011年03月17日
東日本大震災で被害を受けた東京電力福島原子力発電所に近い病院で人工透析の治療を受けていた入院患者と通院患者の計1100人の大移動が始まる。透析を続けられないと命にかかわる事態になるためだ。現場の医師らのネットワークによる綱渡りの移動となる。
患者に残された時間が少ない中、いわば「見切り発車」でスタートしたプロジェクトの報告をしたい。
患者の大移動が始まるのは、福島県いわき市の「いわき泌尿器科病院」(川口洋院長)。
東京電力の福島第一原発から50キロ以上離れているが、原発事故が深刻化する中で、医薬品卸から透析に必要な薬剤などの医療品が提供されにくくなったため、人工透析が続けられなくなった。
腎臓病患者は、血液中の老廃物を取り除くために1週間に2回は人工透析をする必要がある。1週間透析をしないと命にもかかわるという。いわき泌尿器科病院には人工透析を受けている入院患者が約100人、通院患者が1000人いる。
いわき泌尿器科病院は、患者が透析を続けられる環境を作ろうと、14日ごろから移送先を探したが、みつからない。この窮状を知ったのが、千葉県鴨川市の亀田総合病院(亀田信介院長)の小松秀樹医師だった。まず、亀田病院で患者を受け入れることを決めたが、問題は移送方法だった。入院患者を含めた患者を、先が読めない被災地の交通網をくぐって300キロ以上離れた鴨川まで運ばなければならない。
小松医師や上昌広医師(東大医科学研究所)を中心に、「被災地の医療提供体制を支援する会」というネットワークが立ち上がり、インターネットで関係者に協力を呼びかけた。いくつものバス会社に当たったが、ネックは2つあった。1つは300キロ以上を走る燃料の確保だ。ガソリン・軽油不足は被災地で深刻だが、震災後には首都圏でもガソリンスタンドに行列ができている。もう1つは、患者を安全に運べるかどうか。
閉塞状況を打開したのはNGOの「CIVIC FORCE」(大西健丞代表)だった。地元の新常磐交通(高野公秀社長)を紹介したのだ。同社を皮切りに複数のバス会社が協力を申し出ることになった。
小松医師の呼びかけに、大阪府の阪和病院(増井義一院長)、兵庫県川西市の協和会病院(上田邦彦院長)も呼応した。東京では、日本透析医学会の会員である東京女子医大の秋葉隆教授、昭和大学の秋澤忠男教授、帝京大学内田俊也教授も受け入れを表明した。さらに、人工透析の薬剤を提供している大手メーカーも交通費などの資金支援を決めた。
第一陣は、17日朝にいわき市を出発して800人が鴨川、東京、新潟を目指す。残りの300人の患者らも、いわき市以外の福島県や関西を目指して、順次出発することになっている。いまの課題は宿泊先だ。新潟や鴨川は宿泊先のめどをつけたというが、16日夕方の段階で、都内の宿泊先は決まっていない。医師らは東京都と協力して受け入れ先を探している。
◆記事中の医療機関などのホームページは次の通り◆
いわき泌尿器科病院 http://www.tokiwa.or.jp/top.html
亀田総合病院 http://www.kameda.com/about/facilities/general_hospital/index.html
CIVIC FORCE http://civic-force.org/about/index.html
新常磐交通 http://www.joko.co.jp/server/
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