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セ・リーグを憂う【無料】

一色清

一色清

 止まっているエスカレーターを横目で見て、間引きされた電車に乗って出社し、薄暗い廊下を歩いて自分のデスクにたどり着いて、この原稿を書いています。一野球ファンとして、一阪神ファンとして、書かないでいられないので書くことにしました。

 セ・リーグは間違いを犯そうとしています。プロ野球公式戦の日程のことです。パ・リーグは3月25日の開幕予定を半月延期して、4月12日開幕にしましたが、セ・リーグは予定通り3月25日開幕を決めました。しかもナイターでの開催なのです。セ・リーグは今からでも遅くはありません。予定を変えるべきです。もし強行すれば、私はセ・リーグそのものがファンから見放されると思います。

 私は、震災を理由とした過剰な自粛については、不要だと思っています。テレビがバラエティ番組を放送することも、人々の気持ちを和らげるのに効果があるでしょうし、コンサートや展覧会、パーティーなども、震災復興に迷惑がかからなければ、主催者の責任で粛々とやればいいと思います。スポーツ大会も理由がないのに空気だけで開催をとりやめることはないと思います。

 では、セ・リーグが開催を延期するとしたら、それは過剰な自粛になるでしょうか。私はまったく過剰ではないと思います。セ・リーグの開幕戦は、巨人―横浜が東京ドームで午後6時から、ヤクルトー阪神が神宮球場で午後6時から、中日―広島がナゴヤドームで午後6時から行われます。東京電力管内の東京ドームと神宮球場の2試合は、計画停電の最中に行われます。東京ドームのナイター開催の消費電力量は一般家庭4000世帯分だそうです。神宮球場はそれより少ないそうですが、それでも1000世帯分以上の電力を使います。

 「計画停電をしているのだから、やろうと思ってもできないのではないか」と考える人もいるかと思いますが、東京ドームも神宮球場も都心にありますので、計画停電の対象地域になっていないのです。なぜ都心が計画停電の対象になっていないかというと、それは国や企業を動かしている司令塔が集中していて、停電になると震災復興や経済活動に影響が大きいと考えて特別扱いされているのです。野球をするために特別扱いされているわけではありません。計画停電中のナイターは、周辺に住む膨大な人たちが暗い中で生活して生み出した電力で、煌々とした明かりの下で野球をしているという図になるわけです。

 「計画停電はいつ終わるか分からないのだから、4月中旬に開催を延期しても事態は変わらない可能性が高い。ならば25日開催でも同じだ」という理屈もあり得ます。ただ、4月中旬くらいになれば、暖かくなるため電力使用量が減り、実態として計画停電をしないですむようになる可能性があります。計画停電が続くようなら、少なくともナイター開催をデーゲーム開催に変える(ドーム球場ではデーゲームでもかなりの電力を使いますが)ことで、社会が許容できる範囲に入るように思います。あるいは、使用球場を東京電力、東北電力管内からそれ以外の地域に求めることもあっていいと思います。今の東日本の電力事情はそれくらい深刻な問題だと思います。

 新聞に載っている球団の代表の談話を読むと、鼻白む思いがします。18日付日刊スポーツによれば、巨人の清武代表は「日常化に向かう努力が、復興への足がかりになるんだから」、ヤクルトの新常務は「野球が我々の使命。責務を全うしたい」、阪神の沼沢本部長は「健全なスポーツを通じ夢を与えることがプロ野球の使命」と言っています。でも、これが本心でしょうか。私は、そろばんをはじいているはずだと思っています。

 加藤良三コミッショナーは「批判を受けるのは覚悟の上です」と言っています。そして「この困難な状況においてこそ、気力を振り絞って、真剣勝負をお見せすることこそが、プロ野球に期待される社会的使命」などとした声明文を出しました。でもこの声明文を読んでも、批判を想定してもなお強行する理由がよく分かりません。よほど大きな力が働いたのでしょうか。

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筆者

一色清

一色清(いっしき・きよし) 

【退任】週刊紙「アエラ」前編集長。1956年生まれ。78年朝日新聞社に入り、経済部記者、「アエラ」編集部員などを経て、2000年「アエラ」編集長。beエディター、出版本部長補佐などを経て、08年10月から「報道ステーション」コメンテーターを務めた。「アエラ」副編集長時代には、中吊り広告下の一行コピーを担当。2012年1月まで「WEBRONZA」編集長。

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