常見陽平
2011年05月02日
50代以上のマスコミ関係者、フリーの大御所ジャーナリストと、会うとこんなことをよく言われる。私がリクルート出身者だと分かると挨拶がわりにこう言うのである。10代の頃にロックに目覚め、大音量で音楽を聴いていた私は、やや耳が遠く、最初は、「リクルート事件を起こした、創業者江副浩正は、やり過ぎだった」という意味に聞こえた。ただ、どうやら意味は逆らしい。「江副浩正が逮捕された件は、やりすぎだったんじゃないか。彼は、冤罪とも言える状態だったのではないか」という意味だった……。そして、江副さんとホリエモンが、私には重なってみえるのだ。ホリエモンの件は国家権力も、メディアも、やりすぎだったのではないか?
(※なお、私は江副浩正氏とも堀江貴文氏とも直接面識はないが、それぞれ元社員として、同世代として、リスペクトの意味で江副さん、ホリエモンと表記する)。
ホリエモンの懲役が確定した。ライブドア事件から実に約5年が経った。ふと、思った。「そういえば、ホリエモンはどんな悪いことをしたのだろうか?」
粉飾決算を本当にしていたのなら、その罪には同情の余地はない。皆、死に物狂いで真面目に働き、税金を収め、住宅ローンに負われながら暮らしている。いや、働き、住宅ローンに追われるのはいまや勝ち組だ。菅直人首相がどう言おうと、庶民にとっては一に雇用不安、二に雇用不安であり、「最大不幸社会」なのだ。そんな社会でもルールを守り、粉飾決算などしないように人は生きているはずである。
とはいえ、今回の件を具体的に、説明しろと言われると、実は多くの人が言葉につまるのではないだろうか? 私は法律については素人だ。ただ、「物事は根拠を示す」のが社会のルールだということくらいは分かっている。最高裁は具体的な根拠を出さず上告を棄却した。元々、強制捜査に立ち入った段階でも、風雪の流布と偽計取引という二つの容疑だった。この2つとも法律的にはグレーゾーンだったはずだし、任意の事情聴取がなかったことについては悪意を感じざるを得ない
だいたい、過去の粉飾決算で実刑判決を受けたのはホリエモンくらいであり、粉飾決済金額においてもライブドアの53億円は3000億円前後の粉飾決算をした長銀、山一ほどではない。公平性、透明性にかけると言わざるを得ない。
「出る杭は打たれる」という言葉がある。日本社会はこの言葉そのものである。ホリエモンとライブドアがそうであるように、江副さんとリクルートもそうだった。江副さんの「罪」に対しても、ドライに言うならば同情の余地はないが、小市民的感覚で言うならば、政治家に歩みよっている大企業など、他にもたくさんあるのではないかと思うのだ。
成り上がり、目立ったものは叩かれる。企業のトップたちは「創造的破壊を」などと言う。私が関わる新卒採用の分野においても「従来にはいない尖った起業家タイプの人材が欲しい」などという声を聞くが、いざそんな人材がいたら、評価せず、入社したところで活用できず、逃げられるのが日本企業である。閉塞感が指摘され、英雄が求められるが、いざ現れると徹底的に叩きつぶす。これが日本社会だ。
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