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有罪を避けられなかった錬金術

森永卓郎

森永卓郎 経済アナリスト、獨協大学経済学部教授

「世の中の真理は不公平、不条理なのでどうすることもできない」。4月26日、最高裁の上告棄却を受けて臨んだ記者会見で、堀江貴文元ライブドア社長は、そう語った。これまで何度も大企業の粉飾決算が発覚した。しかし、それに携わった経営陣が有罪になることは少なく、ましてや2年6ヶ月の実刑という重い判決は、異例だ。しかも堀江元社長が用いた株式交換や投資事業組合を通じた株式売買といった個別の取引は、違法性を問えるものではなかった。「道路を車で流れに乗って走っていたら、自分だけが逮捕されて、しかも重罪になってしまった」。堀江元社長はそんな感じで思っているのではないか。

 確かに、堀江元社長の逮捕・起訴に関しては、「国策捜査」の部分があり、けっして公平な裁判が行われたとは言えないと思う。ただし、ライブドア事件全体をみると、私は、堀江元社長の有罪はやはり避けられないのだと思う。

 今回裁判になった粉飾決算事件は、ライブドアが実質支配する投資事業組合がライブドア株を売却した利益をライブドアに還流させたというものだ。つまり、ライブドアは実質的に自社株を売って、その代金を自社の売上に計上していたことになる。これは許されることではない。なぜなら、もしそんなことが許されるのであれば、何もビジネスをしていなくても、どんどん株式を発行していけば、その「売上」で経営ができてしまうことになるからだ。つまり、ライブドアがやったことは、まさに錬金術だったということになる。

 その意味では、ライブドアによるニッポン放送の買収事件もマネーゲームそのものだった。2005年2月8日、ライブドアがニッポン放送の発行済み株式の29.6%、972万株を東京証券取引所の時間外取引で取得した。それ以前にライブドアはニッポン放送株の約5%を取得していたから、この取引でライブドアの持ち株比率はいきなり35%に達した。当時、私はニッポン放送で「朝はモリタク!もりだくSUN」という朝のニュース番組のパーソナリティをしていた。ライブドア事件は、単なるニュースではなく、我が身に降りかかる災難でもあった。

 ライブドアが用意した買収資金は、リーマンブラザーズに転換価額修正条項付新株予約権付転換社債(MSCB)を発行して得た800億円だった。この社債は金利がゼロだが、市場価格の1割引でライブドアの株式に転換できるという条件がついていた。詳しい説明は省くが、このMSCBの発行条件は、ライブドアに非常に不利な条件のものだった。実際、リーマンブラザーズはこのMSCBに絡んで、少なくとも100億円以上の利益を得たと言われている。大きな犠牲を払って行った資金調達は、何がなんでもニッポン放送を買収するためだった。買収の錦の御旗は、「放送とITの融合」のためだった。しかし、堀江氏の狙いは最初から、ニッポン放送ではなく、当時ニッポン放送の子会社だったフジテレビの経営権取得だった。

 2004年12月3日、堀江氏が私のラジオ番組のゲストとして出演してくれた。「完全競争のマーケットは利益がでない」と主張する堀江氏に私は聞いた。「いま日本で規制によって最も潤っている業界はどこですか?」。彼は間髪入れずに答えた。

 「在京のテレビ局ですよ。電波の構造から新規参入はあり得ないんです。大きな利益を出していないようにみえますが、適正な賃金にすれば大きな利益がでます。ただ、テレビ局を買収するのは難しいんですよ」。これはライブドアがニッポン放送株の大量取得を発表する3カ月前の出来事だ。

 また、

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筆者

森永卓郎

森永卓郎(もりなが・たくろう) 経済アナリスト、獨協大学経済学部教授

1957年7月生まれ。東京都出身。東京大学経済学部経済学科卒業。日本専売公社、日本経済研究センター(出向)、経済企画庁総合計画局(出向)、三井情報開発(株)総合研究所、(株)UFJ総合研究所を経て、現在、経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。専門は労働経済学と計量経済学。そのほかに、金融、恋愛、オタク系グッズなど、多くの分野で論評を展開している。日本人のラテン化が年来の主張。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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