原真人
2011年06月01日
いまも国会では、福島第一原子力発電所の事故を巡って菅首相を追及する質問が繰り返されている。とりわけ焦点は1号機への海水注入の判断についての疑惑だ。この問題は、新事実が次々と明らかになり、それとともに論点が二転三転してしまった。このため、いったい何が問題なのか、多くの国民には分からなくなっているのではないだろうか。問題設定そのものがミステリーと化してしまったのである。
■この問題の論点、疑問点の軸がどんな具合に変わってきたか、時系列で並べてみよう。
(1)東電は原子炉を台無しにするのを恐れて海水注入をためらい、首相が「やれ」と言ってようやく実現した伝えられるシナリオは本当か?
(2)政府の正式発表時刻より早い時間帯に、実は東電が海水注入を始めていた事実が明らかに。それを一時中断させたのは菅首相ではないか?
(3)海水注入を巡る官邸での検討会議で斑目原子力安全委員長から「再臨界の恐れがある」との意見が出されたと政府が説明。これに対して斑目委員長が「事実と違う」と反論。事実はどうだったのか?
(4)官邸にいた東電の武黒一郎フェローから「首相が注入を認めていない」という官邸内の検討状況を東電本社に連絡され、東電が注水を停止したと説明。では武黒氏に状況報告させたのは誰か?
(5)東電による最初の海水注入の開始と中断の事実を、首相ら官邸メンバーは「知らなかった」と主張。それは本当か?
(6)第一原発の吉田所長の告白によって、実は海水注入は中断していなかったことが判明。それは正しい判断だったのか、問題のある命令違反だったのか?
今、海水注入問題を追及する意味とは何か。そして、一番大事な問題設定はどれだったのだろうか。
この騒動を引き起こした根本原因を突き詰めると、それは菅首相が「決めなかったこと」に尽きるのではないか。それがあらゆる物事を複雑にし、混乱させた原因だ。さらに首相が決めなかったことを事後的に取り繕うために関係者らが重ねた小さな嘘(間違い?)がいっそう問題を増幅させていったのではないか。
■関係者らの話から、当時の状況をできるだけ忠実に再現してみる。
ときは3月12日夕、官邸の総理応接室。福島第一1号機の水素爆発によって危機感を強めた官邸に、原発関係の政府関係者ら数十人が集まった。斑目原子力安全委員長や東電の武黒一郎フェロー(元副社長)らも
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