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「年金マガジン-ネット探検隊が行く」vol.13 泥縄改革の行方(3)

松浦新

松浦新 朝日新聞経済部記者

 「税と社会保障の一体改革」は、中身をすっ飛ばして増税が決まった。その中身は「泥縄」なので、財政当局にとって都合のよい話だが、「消費税10%」は軽くない。メニューもろくに見ずに「おまかせ」で注文をしたようなものだ。

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「年金マガジンネット探検隊が行く」vol.1 改革は一体どこへ

「年金マガジン-ネット探検隊が行く」vol.2年金の仕組みから理解しよう

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 【ネット探検隊】 年金の現状や改革の方向性をネット上のデータを探索しながら明らかにしていく。隊長、隊員は以下の3名。

 隊長:香川年男 1973年生まれの37歳。バブル崩壊後、阪神大震災の年に社会に出た。

 隊員:本田景子 1985年生まれの25歳。リーマン・ショック前の平成ミニバブル期の採用。

 隊員:岡崎金人 1947年生まれの63歳。団塊世代の先頭集団で、定年後も嘱託で働く。

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 香川 迷走していた税と社会保障の一体改革がまとまったと伝えられています。ただ、どうもよくわからないのは、消費税率のことばかりに焦点があたっていることです。もちろん、国家財政は大変なので、政府は税収を増やしたいと考えるでしょう。でも、政治家は国民へのサービスを考えて欲しい。一体改革と言っているのに、社会保障の中身の議論が盛り上がらないのはどうも疑問ですね。

 本田 そうですね。私も、日本の財政は火の車だと思っていますから、税収を増やすのは当然だと思います。ただ、せっかくの機会なのに、社会保障の中身の議論がなくて、消費税をいつ10%に上げるかという一点ばかりが注目されています。その結果、2010年代半ばまでに段階的に消費税を10%まで上げるということになりました。2015年前後が念頭にあるようですが、なぜ、2015年と10%にこんなにこだわるのか、よくわかりません。なんか、内輪の議論で負担増だけが決まったようで、納得がいきません。

 岡崎 メニューみたいなものはあるんだけどねえ。レストランに入って、せっかくのメニューを見ずに、「きょうは1万円でおまかせで頼むよ」と注文を出したようなものだなあ。こんなことやったら、まずい料理が出てきても文句を言えないよね。民主党というレストランは、そんなにおいしい料理を出す店だとは思わないんだけどなあ。

 本田 その通りです。パートタイム労働者への厚生年金加入の拡大、厚生年金と共済年金の統合なんて、自民党の時代と変わりません。民主党のマニュフェストは、働き方に関係なく、みんな同じ年金に入って、現役時代の所得によって、最低保障年金と報酬比例年金を組み合わせて支給するというものでした。老舗レストランの味に飽きて、隣の店のサンプルがおいしそうだと思って店に入ったら、実は隣の店と厨房がつながっていて、同じメニューが出てきたような感覚です。

 香川 年金の問題をとっても、いまの延長線では遠からず破綻します。04年の年金改革の時には、2010年には年金積立金の取り崩しが止まり、2040年代にかけて積み立てが増えていく見込みになっていました。現実には取り崩しが加速して、止まりません。これまで見てきたように、厚労省が甘い財政見通しを立てているためで、今回の一体改革では04年以来行われていない財政再計算をして、きちんとした見通しのもとに国民負担のあり方を考えるべきでした。せっかくの機会を逃してしまい、今後、財政破綻が明らかになった時に、あの時の改革は何だったのか、ということになりかねません。レストランのたとえだと、隣の店の食べ残しをあたため直して出されたみたいで不愉快です。

 岡崎 与謝野馨さんをわざわざスカウトしてきたわけだから、隣のレストランを飛び出した料理人を連れてきたようなものだね。菅さんは消費税増税をかかげた参院選挙で大敗して、衆参がねじれる国会になった。とにかく自民党をはじめとした野党の協力が欲しいのだろうけど、あまりにも露骨じゃないかな。国民としてはしらけるよ。これじゃあ、自民党の代わりに国民に抵抗がある増税を請け負ったようなものじゃないか。それも、国民にとって大切な社会保障で関心を集めているのも疑問だ。なぜ、2015年消費税10%にこだわるのだろう。

 香川 やはり、団塊世代が65歳を超えることが大きいでしょうね。年金給付が本格化して、医療費も増えますからね。いま、65歳以上は人口の23%程度ですが、2015年には27%程度に増えます。すでに、国家財政は半分を借金でまかなっていますが、よほど景気がよくならない限り、税収の自然増でこの状態を改善することはできないでしょう。なんとか税収を増やさないと危機的な状態になることが避けられません。気持ちはよくわかります。

 本田 確かにそうですが、今回のような見え見えの増税策では国民の多くがついていけません。それがわかっていたから「税と社会保障の一体改革」を持ち出してきて、国民の理解を得ようとしたわけですよね。せっかく舞台を用意したのに、へたくそな芝居を見せられているような感覚です。いくら正しいことをしていても、国民が理解してついていけないのでは民主的な手続きを経たとは言えないのではないでしょうか。国の借金が問題だと言いますが、そんなに信用が落ちていれば国債の金利は上がる(国債価格は下落)はずです。にもかかわらず、あれだけの大震災の後も、むしろ金利は下がっています(国債価格は上昇)。日本がギリシャのようになると言う人もいますが、まったく違いますね。

 香川 確かにそうで、国債価格が下がる、下がると言われて10年以上になる。これでは国の信用よりも、それを警告している人の信用のほうが下がるよね。例えば、10年前に金利が上昇することを心配して固定金利の住宅ローンを組んだ人なんか、ずいぶんと余計な金利を払ってしまった結果になっている。この状態で国債の信用が落ちると言っても説得力がないのはわかるよ。

 本田 とは言っても、日本の年齢構成を見ると、高齢化は2015年では止まりません。2023年には65歳以上が3割を超えて、2034年には3分の1に達します。この時に現役世代は支えきれるのでしょうか。お金を稼ぐ人が減って、使う人が増えていく時に、国民は日本国債を持ち続けることができるでしょうか。公的年金の積立金だけでなく、企業年金も取り崩しが進みます。年金積立金は大量の国債を保有しています。高齢者が増えると、生活のために銀行預金を取り崩すことになります。若い人が減れば、生命保険の契約者も減るでしょう。銀行や保険会社は大量の国債を保有していますが、それが続かないかもしれません。それを考えると、いまのうちに借金を減らす道筋を示してもらわないと、私たちの老後はとんでもないことになりかねません。そのためにも、頼りになる社会保障の姿を見せてもらいたいところです。

(次回に続く)

※ ご意見・感想などを筆者にお寄せください(matsuura-s@asahi.com

◆ 記事中に出てきた情報源◆

社会保障・税一体改革の成案:http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/kentohonbu/pdf/230630kettei.pdf

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筆者

松浦新

松浦新(まつうら・しん) 朝日新聞経済部記者

1962年生まれ。NHK記者から89年に朝日新聞社に転じる。経済部、くらし編集部(現・文化くらしセンター)、週刊朝日編集部、特別報道部などを経て、現在は東京本社報道局経済部に所属。年金、医療をはじめとした社会保障制度に関心を持つ。金融商品や土地・住宅問題など、くらしと経済に関わる問題に関心がある。

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