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 震災復興に巨額な費用がかかるが、その費用を次世代の負担にしてはならないから、増税によって賄わなければならない。それが未来に対して責任ある態度だと議論すると人が多い。日本経済新聞社とテレビ東京の世論調査によると、復興財源を臨時増税で賄うことに59%の人が賛成しているという(反対は32%)。しかし、そのような議論は、まったくの誤りである。善良で思慮深い日本人は、お気の毒だが、騙されているとしか言いようがない。

 復興投資とその調達方法を考えるときには、次の3つの点を考えなければならない。

 第1に、19兆円~23兆円必要とされている震災復興予算はまったく過大である。過大な復興投資は、時間がかかり、かえって地域産業の復活を妨げる。

 第2に、一時的支出には一時的財源(すなわち、国債発行または資産の取り崩し)を充て、恒常的支出には恒常的財源(しなわち、税)を充てるというのが、財政資金調達の原則である。その原則を破って復興投資を税で調達しなければならない特別な理由など何もない。復興投資を増税で調達すれば、ただでさえ停滞している日本経済の復活を妨げる。そもそも、国債の負担度は、国債の金額自体ではなくて所得に対する比率で計るべきものである。本来の復興投資をすれば、国債が増えても、復興によってGDPがそれ以上に増えて、GDPに対する国債残高の比率が低下するので問題はない。また、復興投資のために財政支出を拡大するときには、同時に金融を緩和しなければならない。金融を緩和しないで財政支出を拡大すれば、円が上昇し、輸出減少によって景気が悪化するからである。復興増税論は、これらのことを何も考えていない謬論である。

 第3に、復興財源論とはやや話題がずれるが、福島原発事故による電力不足に対処するために必要なのは、自然エネルギーへの転換ではなくて、火力であるということである。性急な自然エネルギーへの転換は電力価格を急上昇させるが、火力であればせいぜい1割程度の上昇で済み、日本経済への大きな打撃にはならないからである。

 以上3つの点を、5回の集中連載によって説明していきたい。

 

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〈第1回〉復興予算は大きすぎる

 7月19日に発表された東日本大震災からの復興基本方針によると、5年間の復旧・復興対策規模は19兆円(10年間では23兆円)であるという。その財源として、当初は、既存予算の削減で9兆円、時限的な増税措置により10兆円を確保するとしていたが、民主党内で増税が反対され、どのように財源を確保するかは決まっていない。

 19-23兆円という規模は大きすぎる。被害の大きかった福島、宮城、岩手でも、内陸部に入れば被害は限られている。この3県の人口は571万人であるが、津波による浸水地域の人口は51万人である(総務省統計局調査)。この中には、床下浸水地域の人口も含まれている。避難された方の数は、ピークで40万人である(警察庁緊急災害警備本部)。すると、自宅に住めないような深刻な被害に遭われた方はせいぜい50万人程度だろう。

 一方、日本全体の工場や住宅、道路や橋や港などの物的な資産の額は1,237兆円(うち民間部門が812兆円、公的部門が425兆円-内閣府「国民経済計算」)である。日本の人口は1億2,691万人なので、一人当たり640万円の民間資本(工場や住宅や漁船など)、335万円の公的資本(道路や橋や港湾など)、合わせて975万円の資本を持っていることになる。上記の数字に50万人を掛けて、東北で破壊された民間資本は3.2兆円程度、公的資本は1.7兆円程度、合計で4.9兆円程度ではないだろうか。用心のために少し多めに考え、かつ、切りの良い数字にするために、破壊された民間資本を4兆円、公的資本を2兆円、合わせて6兆円としよう。

 公的資本の2兆円は全額政府の負担で復旧しなければならない。民間資本のすべてを政府の負担で復旧するのは、むしろ不公平ということになるだろう。政府が半分援助するとすれば、2兆円で済む。すなわち、合わせて4兆円が必要な復興費用ではないだろうか。

 

◇自治体も壊れていないことを認めている◇

 そもそも、そんなに壊れていないことは、被災地の自治体も認めている。岩手県は、産業被害4,795億円、公共土木施設被害2,567億円、合わせて7,362億円と推計している(「岩手県東日本大震災津波復興計画復興基本計画(案)」平成23年6月、表2)。福島県については同じ資料を見出すことができなかったが、福島県の土木部関連公共施設等被害額は3,162億円である(福島県ホームページ「公共土木施設の被災状況について」)。宮城県は被害額ではなくて復旧費を試算している。それによると、国道や県道の復旧費は3,223円、鉄道復旧費は720億円である(河北新報2011年06月11日)。破壊された物的資産の額が6兆円というのは、むしろ過大かもしれない。

 また、金融庁が民主党の会合で明らかにしたところによると、宮城、岩手、福島の特に被害の多かった沿岸部で、金融機関の抱える企業・個人向け債権が1.2兆円で、内訳は、中小企業向け債権が6300億円、住宅ローンを中心にした個人向け債権は4000億円、大企業向けは600億円であるという(日経新聞2011年5月26日)。1.2兆円の債権の3倍の物的資産を持っているとすれば、深刻な被害地域の民間の物的資産額は3.6兆円である。破壊された民間資産は4兆円という私の推計と矛盾していない。

 さらに、物的資産を元に戻す必要もないかもしれない。1970年に17.8万人だった石巻市の人口は2010年には14.1万人に減少した。同じ期間に、気仙沼市では8.8万人から7.3万人へ、陸前高田市では3.0万人から2.3万人へ、大船渡市では4.9万人から4.1万人へ、釜石市では8.0万人から5.9万人へ、宮古市では8.0万人から5.9万人へ、久慈市では4.3万人から3.7万人へと人口が減少している。人口減少を前提としてインフラをコンパクトに再建すべきである。

 前述のように、深刻な被害に遭われた方は50万人である。震災復興予算が最終的に総額23兆円だとすると、被災者1人当たり4,600万円の復興費をかけることになる。一方、日本人1人当たりは、975万円の物的資産しか持っていない。なんで一人4,600万円もかかるのか。

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筆者

原田泰

原田泰(はらだ・ゆたか) 原田泰(早稲田大学教授)

 早稲田大学教授。1974年東京大学卒業後、同年経済企画庁入庁、経済企画庁国民生活調査課長、同海外調査課長、財務省財務総合政策研究所次長などを経て、2012年4月から現職。「日本はなぜ貧しい人が多いのか」「世界経済 同時危機」(共著)「日本国の原則」(石橋湛山賞受賞)「デフレはなぜ怖いのか」「長期不況の理論と実証』(浜田宏一氏他共著)など、著書多数。政府の研究会にも多数参加。

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