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モラル・ハザード阻止なき資本主義に未来なし

吉松崇

吉松崇 経済金融アナリスト

ロムニー候補とプライベート・エクィティー・ファンド

 アメリカでは、共和党の大統領選挙候補者選びが佳境を迎えている。これまでの予備選の結果から、ロムニー候補の優位が確立しつつあると言えよう。ところで、このロムニー候補の職歴が、予備選の他の候補者からも、また民主党からも、これまでの論戦の中で格好の攻撃対象となっている。

 彼はベイン・キャピタルというプライベート・エクィティー・ファンドの創業者であり、嘗て15年間に亘り、このファンドを率いていた。これに対し、「プライベート・エクィティーこそアメリカの雇用を破壊した元凶」と散々にネガティブ・キャンペーンを張られているのだ。ロムニー氏が共和党大統領候補になった場合、プライベート・エクィティーと雇用の関係は大統領選挙の争点であり続けるだろう。

 1980年代後半に「ウォール・ストリート」という映画があった。マイケル・ダグラス演ずるゴードン・ゲッコーが、証券会社の若い社員パドの協力を得て、経営不振に陥っているブルースター・エアラインの買収を行おうとしている。パドの父親はブルースターの労組の幹部でありこの買収に反対するが、パドはゴードンがブルースターの企業価値を高め、従業員にとってもプラスになると信じてゴードンに協力している。

 しかし、実際買収に成功したゴードンは、機材を売り払い、従業員を解雇する。つまり、ゴードンは買収価格より清算価値のほうが高いという計算の下で、買収を行ったのだ。このゴードン・ゲッコーの仕事は、プライベート・エクィティーの一種ではあるが(“ハゲ鷹ファンド”と呼ばれる)、全てのプライベート・エクィティーがこういう手法を採るわけではない。にもかかわらず、この映画の大ヒットにより、この仕事の世間でのイメージは固まったと言えよう。

 リーマン・ショック以降、失業者は巷に溢れている。金融機関は公的資金で救済されたが、経営者は誰一人責任を取っていない。それどころか、2009年は株式市場、債券市場ともに絶好調で、ウォール・ストリートでは幹部も従業員も大きなボーナスを手にした。”Occupy Wall Street”のような運動が起きるのも当然であろう。街には怨嗟が溢れている。

成功すれば自分のボーナス、失敗すればツケは納税者

 しかし、アメリカの知識人向けの雑誌、ニューヨーカーの記事(James Surowiecki, ”The Finance Place:Private Equity,” THE NEW YORKER, January 31, 2012)は冷静である。統計を見ると、

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