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 「若い人が内向きになっているのではなく、社会の仕組みが内向きではないのか」。秋入学を提起した東京大学の濱田純一総長の発言である。教育者らしい言葉ではある。

 東大や経団連に象徴されるニッポンの「横綱」がようやく動き始めた。入学・入社時期が変わり、最終的には、企業や国の会計年度の見直しまで繋がれば、平成の大改革に大きく化ける可能性を秘めている。そこまで波及しないのであれば、意義が小さな試みとなるだろう。

 東大も大学改革に汗をかいているわけだが、大関クラス以下の大学関係者は1990年代から、少子化のサバイバル競争にさらされてきた。

 英語による授業や留学生中心の受け入れを打ち出した大学 や学部が生まれ、グローバル化に舵を切った一部企業は日本の人材不足を補うため、欧米のほか、中国など新興国でも将来の幹部社員としての人材を採用、日本からの本社移転も検討している。経団連型(日本本社にこだわる)が「相撲型」企業と分類すれば、日本本社にこだわらない企業群は「柔道」や「K1」型企業と呼べる。

 英語で論文を書くことが求められ、日本の大学を最終ゴールとしない若手研究者も少なくない。秋入学は最先端の議論ではなく、ニッポンの横綱が動いた点に大きな意味を感じる。

 横綱への注文はたったひとつだけだ。「秋入学」の最大の問題点は卒業後の無職期間(ギャップイヤー)だろう。

 社会経験の意義は認めるものの、スネかじり期間が半年増え、親はたまらない。4年間プラ ス半年、子供を支援する義務を負う。無職期間が固定化されると、教育費・仕送りが確実にかさむ。「先生、教科書買えません」という悲鳴が増えかねない。

 狭い見識とのお叱り覚悟で、英国直輸入の高級チョコレート風というか、コンサルタントが好みそうな臭いもして、「総長、おっしゃる通り」とは言いにくい部分だ。すでに日本の大学に定着したインターシップというカタカナ制度があるのに、さらにギャップイヤーが必要なのだろうか。

企業は人材の囲い込みではなく奨学金を

 首都圏と地方の雇用情勢のギャップを考えると、地方では相当、重い問題になる。抜本的な対策はインターシップや研修などではなく、卒業と同時に採用することだろう。次善の策は新卒採用数を絞り、通年採 用・第二新卒採用・キャリア採用など採用を多様化することだろう。

 余裕があれば、日本であれ、海外であれ大学院に進む道もある。いったん就職して留学資金を自分で稼ぐことで若者はたくましくなる。利益のでている企業は、ギャップイヤーへの協力や採用予定者の囲い込み戦略ではなく、返済不要の奨学金創設で大学生を直接的に支援していただきたい。

東大に先行した立命館や早稲田、そして秋田の公立大学

 少し大関・前頭クラスの昔話をしたい。筆者は1990年代半ば、アジア留学(ロータリー財団、文部省などの奨学金に感謝!)を終え日本に戻ると、あるNPOの紹介で京都の大学関係者からヒアリングを受けた。

 「学生の半分を留学生」にするという大胆な戦略が練られ ていた。2000年に大分県別府市で開校した立命館アジア太平洋大学の準備室メンバーたちだ。同大学は、5722名の学生のうち45%が留学生で占めている。非常勤を含めた293名の教員のうち37%が外国人教員としている。東大は2020年までに「留学生比率を12%以上、外国人教員比率を10%」としている。

 「立命館ではなく早慶なら脅威になるな」といった反応もあった。予備校ではなく横綱クラスの大学関係者の反応だった。そして早稲田大学が2004年に国際教養学部を開設、留学生、外国人教員はそれぞれ3分の1を目標に据え、私立大学の入試ランキングでは上位に位置するなど一定の評価を得ている。

 同じく2004年には、国際教養大学(秋田県)が開校している。専任教員46人の過半数が外国人教員で、英語による講義のほか、入試日程は既存の国公立の前期・後期日程には加わらないことで、広範な受験者を獲得している。倍率は10倍程度と高い。就職実績も着実に積み、国公立入試ランキングで新設大学ながら国立大学の横綱クラスに肉薄する評価を獲得している。ギャップイヤー も導入している。

 立命館や早稲田に触発され、同志社大学や明治大学などが留学生の受け入れを増やす中、東大は留学生受け入れランキングでは、日本一から3位に転落している(図表1)。日本全体の留学生の現在の受け入れは13万人のため、政府目標の30万人にするには、2倍以上に増やす努力が必要である。早稲田大学の次の目標は留学生8000人としている。横綱クラスは全世界からと考えるのかもしれないが、日本全体で見れば、やはり中国、韓国、台湾など近隣アジア諸国が中心になるだろう。

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留学生をめぐる企業の争奪戦

 2000年代前半、エレクトロニクス、金融機関など欧米企業が優位に立ち、東大の学生も第一志望として、外資系のコンサルタント会社や金融機関 を選び始め、留学生も積極的に採用し始めた。最近では、 ・・・ログインして読む
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筆者

小原篤次

小原篤次(おはら・あつじ) 大学教員(国際経済、経済政策、金融)

長崎県立大学国際情報学部准教授。1961年、大阪府堺市生まれ。同志社大学法学部卒、国立フィリピン大学修士。朝日新聞社、チェースマンハッタン銀行(現JPモルガン・チェース)、みずほセキュリティーズアジア初代株式調査部長、みずほ証券リサーチ&コンサルティング投資調査部副部長を経て現職。【2015年12月WEBRONZA退任】

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