小原篤次(経済・雇用ジャンル筆者)
2012年02月25日
「国債のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)が欧州債務危機を拡大させているのではないか」。欧州債務危機について講演会や研究報告でよくある質問だ。
筆者はできるだけCDSに触れず、欧州債務危機を説明することにしている。一般には市場価格さえ入手しにくいCDSにあまりとらわれ過ぎると、欧州金融危機の本質を見誤りかねないと思う。
■バフェット「CDSは大量破壊兵器」
CDSは本来、債券のデフォルトに備えるデリバティブを使った一種の保険契約だった。取引所を通さず金融機関や機関投資家の間で相対取引される。現物の国債の保有とは関係なく、CDSを売買できるため、ヘッジファンドなど投機筋が、危機を増長させた非難される。CDSは現物の債券市場と独立して膨張してきた。米国では、リーマンブラザーズは救済されず、リーマン債などのCDSを大量に抱えていた保険会社AIGが救済された。債券の発行体が破たんし、CDSの胴元も破たんすると、他の金融機関への影響が大きすぎるという判断だ。米国の投資家バフェットはCDS を「金融の大量破壊兵器(financial weapons of mass destruction)」と呼び、警鐘を鳴らしていた。
ギリシャ危機の本質とは、ギリシャ国債もユーロ建ての国債のため、安全資産とみなされていた。そのギリシャが投資銀行の助言も受け、財政赤字自体を虚偽申告していたことが政権交代で明らかになったことだ。次に、新生ユーロには支援体制が未整備のうえ、支援体制が17カ国から構成されるユーロではなかなかまとまらないことだ。さらに、合意が遅れることで、国債の売りが続き、実体経済も悪化して、すでに合意した支援内容を再度、見直す必要に迫れてきた。
ギリシャ国債を保有する金融機関が債務削減に協力するため、財政危機から金融危機の懸念に波及した。CDSによる保証が履行されれば、投資家は利益を確保し損失を軽減できるが、発行した金融機関が損失を被る。
■事件事故は予期せぬリスク
ただし、国債の満期時期がわかるため、欧州債務危機はサブプライムローンよりは、破たんのタイミングがわかりやすい危機である。CDSの保証は、ギリシャ国債のデフォルトが引き金を引くわけだから、CDSよりは市場価格が入手しやすい国債の利回りや、ギリシャ支援を巡る動向を注視することができる。国債の破たんの前に、個別金融機関の経営不安が起きるだろう。CDSに関心を持つ時間があれば、欧州の金融機関の株価を注視すべきだと考えている。株価は国債やCDSより市場価格が入手しやすい。
個人の投資家にとって重要なのは、たまに銀行や証券会社主催の講演会を聞くことではなく、定期的に価格やニュースをウォッチすることだろう。定期的にウォッチしている投資家が、講演会で鋭い質問をすることは双方にとって有意義である。
筆者は、金融市場の予期せぬリスクは、ギリシャ国債のデフォルトや国債CDSではなく、個別金融機関に関する事件や事故だろうと指摘してきた。
■消えた年金問題の防止策
その予期せぬリスクが日本で顕在化した。投資顧問会社、AIJ投資顧問が企業年金から運用受託していた約2000億円の大部分が消失し、金融庁は24日、AIJに1カ月の業務停止命令を出した。虚偽の情報を顧客に伝え、実態を隠していた疑いがあるという。
不可解なのは、
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