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福島のコメ 消費者と生産者の対立を避けよ

青山浩子 農業ジャーナリスト

 2011年産米が100ベクレルを超えた地域では、12年産米の作付を見合わせるべきではないか――。2012年2月、農水省が「(平成)24年産稲の作付に関する方針」を示した際、私が抱いた感想だった。

 500ベクレル(食品1キロ当たり)という国の暫定基準値が4月より、100ベクレルに下がる。消費者は昨年以上に数値に敏感になるはず。であれば、昨年100ベクレルを超えた地域は今年、主食用の米を断念し、除染を徹底的に行なってはどうか。さらに圃場ごとの放射能数値を調べ、地図を作る。この地図に基づいて13年度から作付を再開…など緻密な計画を立てる。そういった取り組みが福島県産の農産物に対する不安感を早く払拭し、信頼回復への近道になると私は思った。

 福島県の米農家はどう考えているのか?新聞記事を読むと「作りたい」という声が圧倒的に多いとある。本当なのか。なぜなのか。福島県の複数の農家に会って話を聞いてみると、結果は意外なものだった。

 「作りたいという農家は自分の周りにはほとんどいない」――。自らも米を作り、野菜や畜産物の集荷販売をする法人の社長はこう話す。法人のある地域は、県内でも放射線量が高いこともあり、「今年も高かったらどうしよう」という不安のほうが大きいようだ。

 別の稲作農家にも聞いた。「何よりもお客さんの視点が重要。お客さんに喜ばれる米を提供するのが自分たちの責任。(数値が高く)喜んでもらえないとしたら、入り口(作付)で厳しく制限すべき」――と話すのは、会津美里町で稲作経営をする(有)グリーンサービスの新國文英さんだ。100ベクレルを超えた地域での作付制限をすべきとの立場だ。

 どうやら「作りたい」という声が圧倒的というわけではない。それなのに農水省はなぜ、いくつかの条件をクリアすれば作付してもいいという道を開いたのか?

 11年産米の流通が始まった昨年11月、福島市大波地区(旧小国村)の米から500ベクレルを超える放射性セシウムが検出された。福島県は急遽、緊急調査を実施。29市町村(旧市町村単位では151地域)のおよそ23,000戸の米を調べた。基準値を超えた米の流通を防ぐため、旧市町村という大きな単位で網掛けし、数値がわかるまで出荷は一時的に見合わせとなった。

 調査の結果、100ベクレルを超えた農家数は2.5%にすぎなかった。また、100ベクレルを超えたと言っても「超えた農家が地域の40%を占める」地域もあれば「たった1,2軒の農家のみ」という地域もあった。1,2軒しかいない地域の農家は「ほんの一部を除けば問題なく出荷できたはず」と悔しい思いをした。

 農水省はこの点を重視したようだ。12年産米の作付方針で「旧市町村より範囲の小さい字等の行政区分で明確に区分できる場合、それを作付制限の範囲とすることができる」としている。細かい区域に分け、「作付前の除染」「すべての米の徹底管理」「全袋調査」といった条件を満たせば作付してもいいと道を開いた。

 「ほんの一部だったのに」という農家の気持ちはわかる。だが11年産の福島県産米の売れ行きは芳しくない。12年産は、除染や検査体制を整える充電期間とし、「福島県の農家はここまで徹底的にやるのか」とマーケットに訴えたほうがいいのではないか。

 依然そんな思いを抱きながら、JA新ふくしま(福島市)を訪ねた。福島市と川俣町の一部を管内とするJAで、23年産米は100ベクレル以上の地域が管内の2/3を占めた。米以上に果樹産地と知られている同JAは昨年来、桃を始めとする果樹で深刻な販売不振を強いられている。

 「信頼回復のために24年産の作付は見合わせるという選択肢はないものか」と質問すると、同JA営農部の斎藤隆部長は「24年産は見合わせれば、25年は確実に売れる保証はどこかにあるか?」と逆に質問された。「24年産の生産をやめれば、いままでの販売先を失うことになる。当然、他産地の米がその席に座る。1年後に私たちが作付を再開したといって、席をとり戻すことができますか」。穏やかな口調ながら、現実を見据え鋭く指摘した。

 斎藤部長は単に販売先を失うことを懸念しているわけではない。「地域全体が衰退する」――。もっとも強調したのはこの点だった。

 同JAに限らず農家の年齢は70~80代が太宗を占める。「毎年作るのが農家の仕事。1年でも休めば気力、体力の両面で『もういいや』とあきらめてしまうだろう」(斎藤部長)

 農家が農業やめれば、たちまち農産物を運ぶ運送会社、農業資材などの会社の業績が悪化する。こうして周辺産業に影響が及ぶとやがて地域経済が衰退する。「地域全体がダメになってしまうのは明らか」――。これも産地がリスクを背負ってでも「米を作りたい」という理由なのだろう。

 斎藤部長の言葉を聞いてハッとした。「作付制限すべき」という私の考えには、 ・・・ログインして読む
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筆者

青山浩子

青山浩子(あおやま・ひろこ) 農業ジャーナリスト

1963年愛知県生まれ。86年京都外国語大学英米語学科卒業。JTB勤務を経て、90年から1年間、韓国延世大学に留学。帰国後、韓国系商社であるハンファジャパン、船井総合研究所に勤務。99年より農業関係のジャーナリストとして活動中。1年の半分を農村での取材にあて、奮闘する農家の姿を紹介している。農業関連の月刊誌、新聞などに連載。著書に「強い農業をつくる」「『農』が変える食ビジネス」(日本経済新聞出版社)「農産物のダイレクト販売」(共著、ベネット)などがある。茨城大学農学部非常勤講師もつとめる。

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