2012年03月17日
■「公務員になれ!」安定幻想にしがみつく人たち
この春、中堅メーカーに就職する横浜市立大学の田中大輔君(仮名)はこう語った。
「就職活動をしている時、週に1回くらい電話で親と話していたんですが、話すたびといっていいほど母親が『公務員はどう? 公務員は安定していていいわよ』っていってくるんです。『市立大学だから市役所に入るの有利なのだから』と、市役所をすすめてきて……ほんと疲れました。市立大学の学生だからって市役所に入りやすいなんてことないのに。大学4年の9月になって、内定が1コも出てないときに、『お金出してあげるから、公務員受けなさい』といわれたときはつらかった。こっちも、内定が1コも出てなくてあせっているときだから、『公務員、公務員、ってうるさい!』と言い返すこともできないし、『公務員いいかも……』と気持ちが揺れるし、で大変でした」
拙著『親は知らない就活の鉄則』(朝日新書)でもご紹介したエピソードである。親たちは「安定しているから」という理由で公務員をすすめる。「3.11を境に、若者の意識は変わった」などと言われるが、別に全ての若者がこれを機会にチャレンジするようになったり、社会貢献志向になったわけではない。むしろ若者の価値観は無極化と言えるほど多極化している。その中でも安定志向を通りこした「安全志向」が学生にも、その親にも広がっている。その象徴の一つが公務員である。
多摩地区にあるMARCHクラスの私大のキャリアセンター職員に聞いたが、資格に強いことで有名なその大学でも最近、志望者が増えているのは公務員、しかも地方上級だという。有名ではない大学だってそうだ。公務員試験への合格者増を進路実績づくりにつなげようとしている。ここで言う公務員は広義のものである。例えば警察官、消防士、自衛官などだ。雇用は安定しているし、民間企業のように経済環境によって採用が劇的に増減することもない、と思われていた、今までのところは。
■「民間でも業績が悪ければ、まず採用を抑制するのは普通」の大間違い
そんな中での政府による公務員削減策の発表だ。岡田副総理は「大胆に、少し乱暴にやらせていただきたい」と言ったそうだが、大胆かつ大変に乱暴な施策だと言える。「民間でも業績が悪ければ、まず採用を抑制するのは普通」とも語ったという。この発言に対して、多くの方は残念な気分になったのではないだろうか。
岡田副総理が言うとおり、民間企業がこのような取り組みをしていることは言うまでもないが、これが企業において良案かどうかはまた別問題である。昨日も、一時新卒採用を抑制した企業の経営幹部に会ったが、苦渋の決断とはいえ、採用を抑制したことを後悔していると言う。組織の年齢構成のバランスが悪くなるだけでなく、組織内の育てる連鎖が失われるからだ。ちなみに、新卒採用の実務においては、1年やめるだけで学生の間での知名度はダウンするし、主な採用実績校との関係も悪化する。採用ノウハウの伝承の問題だって発生する。優秀な人がいるならば、いくらでも採用したいのが本音である。
その言い分は、公務員は解雇も削減も難しいということなのだが、
有料会員の方はログインページに進み、デジタル版のIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞社の言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください