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中国のレアアース戦略で世界は覚醒した

吉松崇 経済金融アナリスト

 3月中旬、日本、アメリカ及びEUは、中国によるレアアースの輸出制限に関して、WTO(世界貿易機関)への提訴に踏み切った。現在、中国がレアアースの世界全体の供給量の97%を占めている。つまり、中国による供給独占の状態にある。

 レアアースとは、17種類の異なった鉱物資源であり、それぞれに様々な用途がある。近年の技術革新で画期的なのは、例えば、このなかのネオディミウムという鉱物を混入することで磁力を10倍に高めた小型の磁石である。これが、スマートフォン、ハイブリッド車の電池やモーター、更には風力発電のタービンに組み込まれており、これがなくては、現代のハイテク技術が立ち行かなくなる。また、レアアースはハイテク軍事技術にも使用されているので、安全保障上の問題でもある。

 2010年9月の尖閣諸島近海での中国漁船衝突事件の際、中国からの日本向けレアアースの輸出が、2ヶ月に亘って途絶えた。中国が、その独占供給力を、外交交渉のカードに使ったのは明らかである。今回のWTOへの提訴が中国の反発を招き、一層の供給削減に繋がるのではないか、との懸念が生ずるのも無理はない。

供給独占の脅威は誇張されている

 ところで、中国によるレアアース輸出の60%弱が日本向けである。レアアースを使用するハイテク製品用の磁石や小型モーターは、日本で生産されて世界中に輸出されている。日本だけでなく、世界中が、中国によるレアアースの供給途絶で脅威に晒されていたのだ。供給の途絶は2ヶ月で終ったが、中国は、これ以後も輸出制限を続けている。この為に、レアアースの国際価格、例えばネオディミウムの価格は、2011年の夏に、供給途絶前の30倍にまで値上がりした。

 だが、幸いなことに、レアアースの埋蔵量が中国に集中している訳ではない。埋蔵量に占める中国のシェアは30%強である。1960年代以降、最大の産出国はアメリカであった。中国は、1980年代からレアアースの採掘を始めたのだが、中国産の価格が安いので、世界中の需要が中国産にシフトした、というのが実情である。アメリカ最大のレアアース鉱山、マウンテンパス鉱山(カリフォルニア州)は2002年に閉山している。

 イギリスのファイナンシャル・タイムズは、3月13日付けの社説で「中国による供給独占の脅威は誇張されている」と述べている。(”The overstated fear for rare earths” Editorial, Financial Times, March 13, 2012)

http://www.ft.com/intl/cms/s/0/804069b2-6d2d-11e1-ab1a-00144feab49a.html#axzz1q7TrCUgq

 「そもそも、中国産のレアアースが、アメリカ産やオーストラリア産より圧倒的に安い大きな理由は、中国が採掘で発生する環境汚染を放置して来たからだ。中国もこの問題に気付いて、採掘の規制を強めている。WTOへの提訴は勿論正しいが、中国依存に伴う地政学上の懸念からパニックになるような話ではない」とこの社説は述べている。中国の採掘コストの優位性はいつまでも続かない、ということである。

 実は、レアアースの採掘過程で、低濃度の放射性廃棄物が発生する。つまり、天然ウランの採掘と似たような問題が、そもそも存在するのだ。アメリカやオーストラリアでは、この廃棄物処理のコストが、トータル・コストの中で大きな比重を占めていたが、中国ではこれまで、この問題が等閑視されていた、という訳である。

中国の戦略は成功しない

 レアアースの国際価格が上昇すると、これまで採算の合わなかったプロジェクトでも、採算が合うようになる。閉鎖されていたアメリカのマウンテンパス鉱山が、今年中に採掘を再開するという。また、 ・・・ログインして読む
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筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『労働者の味方をやめた世界の左派政党』 (PHP新書、2019年)、『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

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