松浦新(まつうら・しん) 朝日新聞経済部記者
1962年生まれ。NHK記者から89年に朝日新聞社に転じる。くらし編集部(現・文化くらしセンター)、週刊朝日編集部、オピニオン編集部、特別報道部、東京本社さいたま総局などを経て現在は経済部に所属。共著に社会保障制度のゆがみを書いた『ルポ 老人地獄』(文春新書)、『ルポ 税金地獄』(文春新書)、『負動産時代』(朝日新書)などがある。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
朝日新聞を来月から10%値上げします。
理由は工場が火事になって、古くて効率が悪い工場を使わないといけなくなったためです。
こんなことを言ったら、朝日新聞社はかなりの読者を失うだろう。
でも、そんなことを平気で実行に移そうとするのが東京電力だ。
おまけに、社長が「値上げは権利」とまで言う。
燃料代がかかるようになった?
それは、原子力発電所が事故を起こしたためだ。
その事故は、起きないはずのものではなかったのか。
起きないと主張していた事故を起こして、それが原因で費用が余分にかかることになった。客に選択肢がない中で、そのような安易な値上げを認めてもよいのか。
東電は、原発事故の負担を転嫁するものではない、と説明している。あくまでも、原発の燃料よりも火力発電所の燃料費が高いためなので、その差額を負担してもらうと。東電がまず値上げをして、他の電力会社が時間差をつけて同じ理由で値上げをする戦略があるとしたら、姑息としか言いようがない。他の電力会社は、費用がかかる分は経営体力で吸収して、客には転嫁しない判断をしていると信じたい。
普通の会社であれば、値上げの前に、自らの経営体力の範囲で吸収しようとする。それでもどうしようもない場合に、低い姿勢で値上げの努力をする。ところが、東電の場合は、資産処分もそこそこに、当たり前のように値上げを言いだした。それを受け入れない客は電気を止めることもある、とまで言う。
東電の資産については、内閣府の「東京電力に関する経営・財務調査委員会」が調べている。その評価は次のようになっている。
不動産 1兆2011億円
電気事業用 7341億円 → 売却を想定せず
非電気事業用 4670億円 → 2472億円が売却可能
株式 3499億円(上場2495億円、非上場1004億円)
→ 3301億円を売却
関係会社 121社
電気事業分担会社50社 1兆4829億円
多角化会社 71社 1724億円
上記のうち保有を続ける会社 59社
売却・精算する会社 54社 →売却額 1301億円
保留 8社
以上の売却額を合計すると約7000億円となる。これに対して、東電が想定している値上げによる1年間の増収は、年間で約7000億円だ。内閣府の委員会が東電に迫った資産売却は、値上げ1年分にしかならない。
これでは、急いで値上げに動くことを認めているようなものだ。
しかし、筆者はこの資産処分では不十分だと考える。なぜなら、