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ショーとしての国会事故調~4つの事故調を比較する~

大鹿靖明 朝日新聞経済部記者

拡大国会事故調査委で委員の質問に答える菅直人前首相=2012年5月28日午後3時、東京・永田町の参院議員会館

 国会に設けられた「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」(国会事故調)の参考人からの意見聴取は、これを「見せ物」と考えるならば、それなりに見応えがある。東京電力の勝俣恒久会長や菅直人前首相、これまでほとんど表に出てこなかった松永和夫前経産事務次官らを「被告」や「証人」に見立て、「検察役」の事故調の委員が次々に質問を浴びせてゆくのだから、法廷ドラマ的なおもしろさはある。ただし、日本の検察庁の捜査能力が劣悪なのと同様、国会事故調の調査力は力不足が否めない。菅氏のヘリコプターによる視察、海水注水停止騒動、東電の撤退問題など、この1年半さんざん語られてきたことを、なぞるようなやりとりばかりなのだ。

 事故調と名のつくものは4つある。ひとつは東京電力の「福島原子力事故調査委員会」(東電事故調)で、これは原発事故の原因企業である東電が率先して真相を解明しようと考えて設けたものである。昨年12月2日にまとめられた中間報告書は、様々な事故調の先陣を切ったものだったが、中身の密度は最も薄い。及び腰の記者会見で事実を小出しする東電の社風を反映してか、内容は終始、自己弁護的である。

 菅政権時代の昨年5月に閣議決定して設立された「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」(政府事故調、畑村洋太郎委員長)は、小川新二事務局長ら検察官出身者が6人ほどスタッフにいる。その一人は大阪地検からの出向者である。出身母体が証拠改竄という検察史上極悪の不祥事を起こしことの汚名返上もあるのか、この大阪地検から来たスタッフは非常に熱心に事実関係の洗い出しをしている、と委員の間で評判だ。その甲斐あって昨年12月26日に公表された中間報告は、事故初動時の現場の人為的ミスを詳細に明らかにするなど、初めて明らかになる新事実が少なくなかった。

 しかし、検察的な手法の限界からか、やり玉に挙げやすい対象を勧善懲悪的に責める印象が強い。吉田昌郎所長(当時)ら現場の東電社員の責任を追及する一方、政治への影響を考慮したのか、政府事故調の中間報告では初動時の官邸の動きにあまり言及していない。菅首相や海江田万里経産相、枝野幸男官房長官(肩書はいずれも当時)には、そもそもこの中間報告段階では聴取ができておらず、隔靴搔痒(文字化けの場合:そうよう)の内容である。結果的に政治家や経産省に甘いのだ。政府事故調の小川事務局長によれば、7月にまとめられる予定の最終報告書では、こうした政治家の関与とともに、審議官以上の官僚の初動時の振る舞いは実名で表記するというので、最終版に期待したい。

 朝日新聞の元主筆である船橋洋一氏が率いる日本再建イニシアティブは、在野の立場で「福島原発事故独立検証委員会」(通称、民間事故調)を立ち上げた。2月28日に公表されたその調査・検証報告書は、政府事故調とは対照的に官邸に詰めた政治家たちの責任、とくに菅氏のマイクロ・マネジメントぶりを批判的にえぐり出している。その半面、委員の多くがエスタブリッシュメントだったり原子力村関係者だったりするせいか、同じ体質の霞が関のエリートたち――すなわち経産省や原子力安全・保安院、原子力安全委員会の官僚たちの対応の検証や分析は甘い。彼らからバックグラウンド・ブリーフィングを受けていているからなのか、官僚たちの固有名詞がほとんど登場しないのだ。ともあれ、この調査・検証報告書はディスカヴァー・トゥエンティワン社から1575円で市販され、累計9万5000部を発行するベストセラーになっている。4つある事故調のうち、いまのところ最も商業的に成功したのが民間事故調なのである。

 4つ目の国会事故調は、政府事故調のあり方に不満を持った自民党の塩崎恭久衆院議員らの議員立法によって設置が決まっている。4つある事故調の中で唯一、法的根拠のある事故調である(政府事故調は閣議決定で設立が決まっているが、法的な裏付けはない)。

 これだけの大惨事が起きているにもかかわらず、関係者からのヒアリングを非公開とし、責任追及をしない政府事故調に欲求不満を覚える人は少なくない。特に野党の政治家はそうだろう。だから、責任のある者を呼びつけて、公開の場で「参考人聴取」することで(つまり見せ物にすることで)、カタルシスを得たい――そうしてできあがったのだ。従って国会事故調は、その生い立ちからして「政治ショー」という要素を多分に含んでいる。

 5月半ば以降相次いで行われた参考人への聴取――東京電力・勝俣恒久会長、松永和夫前経産事務次官、海江田万里元経産相、枝野幸男元官房長官、菅直人前首相――は、まさにそんな印象だった。

 たとえば5月14日に参考人として出席した東電の勝俣会長は、 ・・・ログインして読む
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筆者

大鹿靖明

大鹿靖明(おおしか・やすあき) 朝日新聞経済部記者

1965年、東京生まれ。早稲田大政治経済学部卒。88年、朝日新聞社入社。アエラ編集部などを経て現在、経済部記者。著書に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』を始め、『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』、『ヒルズ黙示録・最終章』、『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』、『ジャーナリズムの現場から』がある。近著に『東芝の悲劇』。キング・クリムゾンに強い影響を受ける。

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