中口 威
2012年06月04日
フィッチは5月22日、「日本の財政再建は緊張感が欠けている。」として、AAマイナスから、Aプラスに1段階引き下げた。今後の見通しについても、政府の対応次第でさらに格下げの可能性もある「ネガティブ(弱含み)」としている。
格付け機関全般に言えることだが、他国との対比について客観的な指標があるようには思えず、違和感のある部分も少なくない。ただそれを縷々指摘して、何故この国より下なのかなどと詰問するのもあまり建設的とは思えない。
日本国債への固有の評価としてそれなりの理由をつけて格下げされたわけで、大事なことは指摘された内容を真摯に受け止めて、その意図するところを検証し、しかるべき手立てを講じることであろう。
■日本の国家財政の現状
よく言われることゆえ詳細に繰り返す必要もないが、政府の累積債務残高は約1000兆円、GDPの200%を上回っている。
2012年度予算は歳出総額90.3兆円(復興特別会計及び年金交付国債を含めると96.7兆円)、これに対し税収は42.3兆円でその差実に48.0兆円、うち国債発行額は44.2兆円である。また歳出のうち約22兆円、ほぼ四分の一が国債費である(債務償還費12兆円、利払費10兆円)。
現在、「税と社会保障の一体改革法案」を衆議院特別委員会で審議中だが、その成否は五里霧中である。この法案が通らなければ市場が日本国債を売りに来る。フィッチの格下げはその警鐘と捉えるべきなどの指摘もみられ、これはある程度は正しい。しかし仮にこの法案が成立したとしても、一時凌ぎにしか過ぎず、日本の財政を取り巻く状況が本質的に改善するわけではない。
消費税5%で約12.5兆円、従来どおり地方に約30%配布するとして国家財政に寄与するのは約8.8兆円、2012年度予算をもとに修正しても未だ39.2兆円足りない。
国内で国債を引き受けている主な機関は、銀行、生損保、年金基金、そして日銀などである。日銀は別として、これら機関の原資は概ね国民の貯蓄であり、高齢社会に入って貯蓄の取り崩しが始まっている状況下、毎年40兆円もの国債を引き受け続ける余力がそれほど残っているとは思えない。
この規模の国債を継続的に外国人投資家に購入させようとすれば、国債金利は上昇せざるを得ない。単純計算して、金利が1%上昇すれば利払い費は7~8兆円増加し、国債費は30兆円に達する。
以上の状況をどう評価するのか。収入の20倍を大きく上回る借金があるのに、毎年収入のほぼ倍の支出を続けている。どうみても容易ならざる事態であり、急ぎ抜本的な改善策を講じない限り破綻は免れない。
■破綻を回避する処方箋
一言で言えば、「入るを計りて、出るを制す」これに尽きる。入るを計る方策はふたつ。経済成長を
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