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郡司彰農水相人事に見る野田政権短命の覚悟

山下一仁

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 新しい農相に郡司彰氏が就任した。農協出身の農林族議員であり、TPP参加に反対する民主党議員でつくる「TPPを慎重に考える会」の副会長を務め、入閣が内定した後、記者団にTPPついては「情報開示と国民的議論が十分という認識にはなれない」と述べたと言われる。その後もTPPには否定的な見解を披露している。

 TPP交渉参加に積極的な野田総理が、どうして自己の方針に反する大臣を任命したのだろうか?

 農林族議員を農相に据えて、農林族のTPP反対意見を抑えようとするとの見方もあるかもしれない。しかし、民主党内のグループのリーダーである党内重鎮の鹿野前大臣であれば、その可能性もないわけではないが、郡司氏にその力が備わっているとは考えられない。農協からは、鹿野前大臣のように、TPPに反対できる政治力がないことを不安視する声もある。

 郡司氏の農相就任は、野田総理に近い将来TPP交渉参加を決断する意思がないことを示している。そうは言っても、新閣僚の任命には野田総理の意図や理由があるはずである。それは何だろうか?

 一つは、民主党農林族議員の層の薄さからくる消極的な理由であろう。本来、農相候補の一番手に挙げられるはずの筒井前農水副大臣は、機密漏えい事件との関連があり、鹿野氏とともに、農水省を去っている。山田元農相や篠原孝元農水副大臣はTPP反対派の急先鋒であり、彼らを農相に任命すれば、民主党政権はTPPを完全に諦めたというメッセージを内外に表明することになる。

 他の農林族議員は人が少ないうえ、行政経験のある人はさらに少ない。農水省は、BSEや汚染米など突発的な事件の処理に悩まされてきた。農水行政の経験がある人でなければ怖い。このため、行政経験を持つ副大臣経験者のなかから選ぶとすれば、郡司氏しかいなかったのではないだろうか。

 もうひとつは、郡司氏を任命することで、この改造内閣が続く間は、TPP交渉への参加表明はしないというメッセージを民主党内に伝えたかったのではないだろうか。

 TPP交渉の年内妥結はないことが、民主党内の反対派にも浸透するようになった。野田総理としては、消費税増税を何としても実現したい。党内の大きな争点を消費税だけにしぼりたい。TPPという争点が残ったままでは、 ・・・ログインして読む
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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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