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10年先の農業を見通す農政への転換を

青山浩子 農業ジャーナリスト

 6月3日に退任した鹿野道彦農林水産大臣は近年では珍しく、1年9ヶ月という長期間、農相をつとめた。海部俊樹、菅直人、野田佳彦各首相が率いる3内閣での通算在任期間(765日)は歴代一位だそうだ。確かに他の農水大臣に比べて長いというイメージはあったが、温厚な雰囲気で強烈な個性がないせいか、さほどの長さを感じなかった。

 

 農政通のジャーナリストに聞くと「国会議員としての長い経験、党執行部とも小沢派とも距離を保つ中間派として、野田首相にものをいえ、かつ配慮ができる存在だった」と語る。

 

 TPPには慎重な態度を貫いていたが、「議員としての存在感がTPP推進派に対して一定の重石となった」ともいう。

 

 鹿野氏の後任となった郡司彰大臣は就任直後、「TPPは国益にならない」と立場を旗幟鮮明にした。だが「鹿野さんと比べ経歴も浅く、内閣でのプレゼンスが低い。重石の役割がどこまでつとまるか…」とは前述のジャーナリストの弁。

 

 上に立つ人間は、辞めてはじめて評価が下されるものだが、鹿野大臣は一定の評価を得たといえる。在任中だった2010年11月には「農林漁業者等による農林漁業の六次産業化の促進に関する法律案(六次産業化法案)」が成立。11年4月からは戸別所得補償制度を本格実施し、前年の稲作から畑作物に拡大させた。12年から「新規就農総合支援事業」も新たにスタートさせた。

 

 就農前の研修期間(最大2年)や就農直後(最大5年)、新規就農者に所得確保の目的で給付金(ともに年間150万円)を出す。いずれも民主党農政の柱となっている事業だ。

 

 多くの農家が対象となる戸別所得補償で経営の下支えをし、新規就農総合支援事業で農家の若返りをはかり、6次産業化を通じ、生産から加工・流通など幅広く関わることで農産物の付加価値を高める。農業にマイナスになるようなことはひとつもない。

 

 だが、これらがグローバル化に対応しうる農業につながっていくのか?民主党マニフェストや農水省の施策を見る限り、私は答えを見つけることができない。

 

 最近、FTAを推進する韓国の養豚業について調べた。国として明確なビジョンが出されている点が印象的だった。

 

 同国では10年終盤から口蹄疫が大々的に発生し、300万頭もの豚や牛を殺処分する惨事に見舞われた。だがこれをむしろ強みに変えようとしている。国のFTA対策費を使い、老朽化した豚舎を建て替え、近代的な施設で衛生的な養豚をおこなう。それによって生産性を向上させ、輸入豚肉との価格差を少しでも埋めようとしている。一方、国産豚肉のブランド化をすすめ、国産の価値を高め、消費者に選んでもらうという戦略だ。養豚農家だけでなく、国民から見てもわかりやすい筋書きだ。

 

 農水省は「新規就農総合支援事業を通じ2万人の若手農業者を育成」という目標を明確にしている。6次産業化についても「09年時点で95.7兆円の食品関連産業の市場規模を20年までに120兆円にする」という。具体的な数字の設定は同省の意気込みを感じさせるが、2万人の若手農家を世界に通じる農家にするには何が必要かという戦略にこそ農家も国民も期待している。

 

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筆者

青山浩子

青山浩子(あおやま・ひろこ) 農業ジャーナリスト

1963年愛知県生まれ。86年京都外国語大学英米語学科卒業。JTB勤務を経て、90年から1年間、韓国延世大学に留学。帰国後、韓国系商社であるハンファジャパン、船井総合研究所に勤務。99年より農業関係のジャーナリストとして活動中。1年の半分を農村での取材にあて、奮闘する農家の姿を紹介している。農業関連の月刊誌、新聞などに連載。著書に「強い農業をつくる」「『農』が変える食ビジネス」(日本経済新聞出版社)「農産物のダイレクト販売」(共著、ベネット)などがある。茨城大学農学部非常勤講師もつとめる。

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