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ユーロを銀行危機から救うのは誰だ?

吉松崇 経済金融アナリスト

 ギリシャで始まった銀行預金の取り付けが、スペインに飛び火している。スペインに飛び火したきっかけは、経営困難に陥った大手銀行バンキアが、スペイン政府に救済を求めたことに始まる。また一方、これをきっかけとして「銀行救済のためにスペインの政府債務が大きく膨らむ」との懸念から、市場ではスペイン国債が大きく売り込まれた。

 6月9日、スペイン政府はEUに対し、最大1,000億ユーロ(約10兆円)の銀行救済のための資金支援を要請した。この資金は、EUの機関であるEFSF(欧州金融安定化ファシリティー)からFROB(スペイン銀行再建基金)を経由して、スペインの銀行に資本注入されるようだが、スペイン政府がEFSFに対して保証するので、スペイン政府の債務であることに変わりはない。ただ、スペイン政府が、現在の6%を超える高金利で、いま急いで市場で資金調達をしなくても資金を確保できる、ということである。 それでは、取り敢えず、スペイン政府がこの銀行救済資金を確保したことで、銀行預金の取り付け、金融システムの動揺が収まるのだろうか?

スペインの銀行への救済策は問題を解決しない

 銀行預金の取り付けが、個別銀行の信用問題に起因するのであれば、政府が銀行に資本注入を行い、実質的に国有化して、預金の保護を宣言すれば、取り付けが収まる公算が高い。しかし、現在、ユーロ圏で生じている銀行預金の取り付けでは、事情が異なる。ギリシャの人々は、「銀行に預けたままでは、預金がユーロ建てから新通貨建てに切り替わるかもしれない」と恐れて、ユーロの現金を手許に置こうと、銀行預金を引き出しているのだ。このリスクは、銀行が健全であろうがなかろうが、ギリシャの銀行全てが抱えるリスクである。スペインの場合も、きっかけはバンキアの経営問題であったが、人々が抱く懸念は「銀行救済でスペイン財政が破綻すれば、ギリシャと同様、ユーロからの離脱もあり得る」という懸念である。

 「ユーロ離脱リスク」に起因する銀行預金の取り付けは、実に厄介な代物である。同じユーロ建ての銀行預金でも、ギリシャやスペインのような周辺国の銀行に預けられた預金とドイツの銀行の預けられた預金では、銀行の健全性とは無関係に、リスクが異なるということだ。過去の銀行取り付けとは異なり、ギリシャやスペインの預金者の行動はパニックではない。「ユーロ離脱リスク」を真剣に考えれば、銀行預金よりタンス預金のほうが安全である、というのは合理的な行動である。また、他の周辺国、例えばイタリアにいつ拡がってもおかしくない。

 5月24日のユーロ圏首脳会合で、イタリアのマリオ・モンティー首相が「ユーロ通貨圏全体を包摂する預金保険」を提唱したのは、こういう事情である。この構想は「ユーロ圏のユーロ建て預金が、ユーロで償還される」ことをEU全体で保証する、というものである。これが実現すれば、周辺国の銀行のユーロ建て預金にとってセーフティー・ネットになり得る。イタリアへの波及を防ぐことができる。

 しかし、6月9日のスペインの銀行に対する救済策は、このモンティー首相の構想とは似て非なるものだ。例えば、EFSFがスペイン政府の保証を求めず、資本投入した銀行の監督権限をスペイン政府からEUへ移管する、というスキームであれば、これは明らかに「モンティー構想」の第一歩である。このスキームなら、スペイン政府の財政負担が大幅に軽減されるので、「ユーロ離脱リスク」が小さくなる。また、EUが銀行監督の前面に出ることで、ユーロ建て預金への安心感が拡がろう。このスキームは、噂されていたが実現しなかった。EU全体、ひいては自国の財政負担増大を嫌うドイツが反対したのであろう。これでは、銀行への資本投入で暫く時間を稼ぐことはできても、問題の抜本的な解決にはならない。早速、週明け11日の欧州市場では、イタリア国債が大きく売られている。

ギリシャとEUの「チキン・ゲーム」

 6月17日のギリシャの再選挙の行方が注目されている。EUと合意した財政緊縮策の見直し・再交渉を主張している急進左派連合が第一党となる可能性があり、その場合、 ・・・ログインして読む
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筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

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