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好調サムスンに揺れる韓国民の心

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 韓国では今月下旬に念願の「20・50クラブ」入りをすると話題になっている。「20・50クラブ」と言っても、日本では知る人はほとんどいないが、「国民一人当たりの所得が2万ドル、かつ人口が5000万人以上」の国のこと。現在は日、米、仏、伊、独、英の先進6カ国しかなく、韓国は7番目となる()。

 韓国経済の発展をリードしてきたのはサムスンやLG、現代など財閥系のグローバル企業である。とくにサムスン電子は今年1―3月期に営業利益4200億円と四半期ベースで過去最高を更新した。スマートフォン「ギャラクシー」の出荷台数がアップルを上回り利益の7割を生みだした。赤字に苦しむ日本家電をしり目にディスプレー部門も5四半期ぶりに黒字転換した。

 ところが、そのサムスン電子に対し、朝鮮日報は4月25日、社説で痛烈な批判を浴びせた。

 「オーナーが思うほど、自分たちの創意工夫だけで今日の地位を築いたのではない。国民の犠牲や政府支援があったことを忘れたのか。サムスンの社内文化は、同社が世界市場でいずれ直面する危機を想像させる」

 批判のきっかけはオーナーである李一族の遺産争いだ。サムスン電子の李健煕(イ・ゴンヒ)会長(70)は創業者である先代の三男だが、実兄で長男の李猛煕(イ・メンヒ)氏(80)と実姉で二女の李淑姫(イ・スクヒ)氏(77)が「李健煕は父親の遺産の一部を隠して不正な相続をした。自分たちは取り戻す権利がある」と訴訟を起こした。

 記者団に囲まれた李会長は、「彼らは水準以下の自然(野蛮)人だ。とっくに決着のついた話だ。一銭も渡す考えはない」と激しいコメントして驚かせた。李会長が持つサムスングループ株式の評価額は1兆円近くに達し、兄や姉も富豪なのに、カネをめぐる骨肉の争いのあさましさを露呈した。

 社説はサムスンの企業体質も批判した。「最大の支援者であり顧客である国民を尊重する態度がまるで見えない。エリートが集結しているサムスン社員は、誰もトップを諌めようとせず傍観しているだけだ」。

 この怒りを理解するには、韓国の最近の経済情勢を知る必要がある。リーマンショック直後の2007年12月に就任した李明博大統領の政策は、「まず大企業を回復させ、韓国経済全体を引き上げる」という財閥系大企業への優遇政策だった。

 輸出振興のために極端なウォン安に誘導したほか、日本の6割ほどの法人税率(27%)をさらに多様な優遇措置で半分以下に引き下げたほか、銀行からは市中金利よりはるかに低金利の資金を融資させた。

 サムスン電子の国別の営業利益率は、韓国内の約40%に対し、欧米やアジアは2~5%程度で、国内市場での利益率が異常に高い。これは韓国の電子産業がサムスンとLG2社の寡占になっていて競争がないために儲けが大きく、その利益を元に、いわば「国民の犠牲」の上に世界へ販売攻勢をかける構図になっているからだ。

 「国民の犠牲」は自動車分野ではこんな風に起きている。最近、現代自動車が北米向け輸出車には腐食防止性能が優れて高価な亜鉛メッキ鋼板を使いながら、国内向けの同じ車種では低価の普通鋼板を使っていたことが、朝鮮日報の特ダネで明るみに出た。車体の腐食に対する無料保証期間は、北米向けは7年間あるのに、国内向けは2年間と差別していたという。

 設備投資についても、

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