2012年07月02日
日銀政策委員会の審議委員として、野村証券の木内登英・金融経済研究所経済調査部長と、モルガン・スタンレーMUFG証券の佐藤健裕マネージングディレクターの2人が国会で同意された。この新委員についての知識に欠ける筆者が、新委員について個別具体的にコメントすることは適当ではないが、日銀の審議委員の構成やその選考プロセスについての一般的な考え方を述べてみたい。
ただその前に、筆者の、当面の金融政策運営を巡る現況についての基本的な認識はお断りした置いた方が良いかもしれない。
既に4月末の本欄で述べたところなので略言にとどめるが、第一に、金融政策が現在日本経済が抱えている基本的な問題に有効に対処できる手段はきわめて限られている――ゼロに近い――にもかかわらず、第二に、金融政策が有効な処方箋を提供しうるという「幻想」が増殖している、というのが、大胆に割り切った時の筆者の認識である。
日銀審議委員の問題に立ち戻ると、まず気にかかるのは、今回の人事にとどまらず、新日銀法下での審議委員に、有力な金融経験者がほとんど見られないことである。
今回の新委員も、金融界の方ではあっても、いわゆる「エコノミスト」、金融政策・金融事象に関する情報の専門家であって、金融そのものの専門家ではないのだろう。新日銀法制定以来の審議委員の顔ぶれを見ても、学者以外は、このような「金融界エコノミスト」か、非金融の産業界での財務経験を積んだ方々が多かったように記憶する。
もちろん、このような方々も必要である。しかし、それにもまして望まれるのは、金融経営について高い識見をお持ちの方々であろう。
バブル問題が否応無く視野に入って以降、中央銀行は、従来の狭義の金融政策、物価安定を目標とする「マクロ金融政策」とならんで、金融システムの安定といわれる課題にも力を注がなければならなくなっている。そのようなとき、金融界での実際の活動に裏打ちされた知見が求められる筈である。
旧日銀法下での、政策委員には、「指定席」として、銀行界の大物OBがいつもおられたように思う。勿論、政策委員会が有効に機能することの無かった旧法時代であり、また、金融システムの安定が規制によって支えられていた時代であったので、この方々の知見が活用されることもあまりなく、また、必要ともされなかったのかもしれないが。
日銀審議委員の処遇(給与のほか厳格な兼職制限)や、過大な負担(あまりに頻繁な政策決定会合)のけ再検討も必要であろうが、おそらくこの問題の根は深く、日本社会における、公私間の人材の交流、有用な知見の社会的共有のあり方といった大きなテーマに結びつく話であるかもしれない。
あまり世の中で公知されていることとも思われないが、日銀政策委員会は現代日本においてユニークな組織である。一般の企業に引き比べれば取締役会に相当するはずであるが、
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