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保安院、初動時にまったく機能せず/片山課長の反省

大鹿靖明 朝日新聞経済部記者

 東京電力の福島第一原子力発電所爆発事故で、原発の安全規制を担う経済産業省の原子力安全・保安院は、昨年3月11日以降の初動時に事故進展予測や住民の避難誘導にまったく機能を発揮しなかった。保安院の片山啓企画調整課長は6月26日、インタビューに応じ、「(保安院が)住民避難誘導の原案をつくれなかった」「先手、先手を打って避難区域を決めたのは官邸でした」と反省を込めて初動時の対応を明らかにした。官邸が急速にマイクロ・マネジメントに傾斜し、後に官邸の過剰介入という批判を招く背景には、初動時の保安院が機能麻痺に陥っていたことがありそうだ。

 片山課長は京大経済学部を卒業し、1985年に当時の通商産業省に入省した。技官ではなく、キャリアの事務官のため、原子力に対する専門知識はないが、資源エネルギー庁の電力市場整備課長を務めた経験があり、省内では「電力有識者」と評される。

 昨年3月11日午後2時46分の発災直後は、大きな揺れに驚き、あわてて防災服に着替えて、経産省別館3階にある緊急時対応センター(ERC)に駆け込んでいる。机を並べ替え、ホワイトボードを持ち込み、パソコンをつなぐ。これまでの訓練の甲斐があって、こうした緊急時の体制立ち上げまではつつがなく進んだ。保安院トップの寺坂信昭院長(当時)は官邸に車で向かっている。ERCには、総括班、プラント班、放射線班、住民安全班など機能ごとに組織がつくられ、片山課長は総括班の班長という役回りになった。

 福島第一原発から同日午後3時42分に原子力災害対策特別措置法10条の規定に基づく緊急通報(このままでは原子力緊急事態が起きかねない)がなされ、同4時36分には同法15条に基づく緊急通報(原子力緊急事態に該当する事故が起きた)が届いてから、保安院のERC内の様相は一変する。15条通報を受けて、保安院は住民を避難させるための避難区域の策定をしなければならないのだが、それが訓練通りにはいかなかったのだ。

 住民への避難指示は、まず、ERCのプラント班が、事故発生時の原子炉の状態を予測する緊急時対策支援システム(ERSS)を稼働させて、事故の進展予測をすることから始まる。次いでERCの放射線班は、このERSSの予測をもとにして緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)を動かし、避難区域を地図上に落とす。このSPEEDIのデータはERCの住民安全班に渡され、地図上の情報を行政上の市町村単位に落とし、どの地区の住民何人に対してどちらの方向に避難すべきか、を決める。こういう段取りになっていた。

 ところが、そうした業務の流れはまったく機能しなかった。

 「通信インフラがやられてしまって、我々が事前に準備していた手順がくめなくなったのです。福島第一原発からプラントの状況がERSSに自動転送されて、それで事象を予測するというのが大前提だったのですが、それが来なかったのです。しかも、現地の放射線のモニタリングポストも地震で壊れてしまって。モニタリングの情報も来なかったのです」

 データがこなかったプラント班は、それでもERSSを動かし、過去のデータベースの情報をもとに3月11日午後10時すぎには2号機の炉の状態を予測している。それによれば、日付が変わった12日午前零時50分に「炉心溶融」(すなわちメルトダウン)と記されている。同様にデータがなかった放射線班もSPEEDIを仮の数字を入れて動かし、11日午後9時12分に1回目の予測をし、12日午前1時35分には2回目の予測もしている。ERSSのデータとSPEEDIの予測は、官邸に送られている。ともに実際のデータを入力したのではなく、いわば「仮想」の予測だった。

 しかし、官邸への連絡機能を有する総括班の班長である片山課長は、こうしたシミュレーションが行われていることすら知らなかった。

 「ERSSの予測を私は見ていないのです。いま振り返ると、プラント班が何をやっていて、官邸に送ったのならばそれがちゃんと届いたのかということを、私も関与した方がよかった。反省点ですね。私としては退きすぎてしまった。SPEEDIのほうもそうした予測をしていたことを私は当時、知らなかったのです。ずっと後になってSPEEDIを動かしていたことがわかったのです」

 ――仮想のデータではあっても飯舘村方向に放射性プルームが流れることは予測できたはずですが、住民避難に供しようという考えはありませんでしたか?

 「ありませんでした。どれくらいの放出量があるのかというのがインプットされたSPEEDIのデータは使えますが、それがない仮定計算のSPEEDIのデータは、実際に避難誘導には使えないと思います」

 ――根拠が曖昧だからですか?

 「はい」

 結局、ERSSもSPEEDIも事前に想定していたようには使えないという認識が、ERC内で広がり、「避難区域をどうするかというときには同心円しかないよね、となりました」(片山課長)。

 一方、菅直人首相(当時)の説明役にかり出された寺坂院長は、 ・・・ログインして読む
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筆者

大鹿靖明

大鹿靖明(おおしか・やすあき) 朝日新聞経済部記者

1965年、東京生まれ。早稲田大政治経済学部卒。88年、朝日新聞社入社。アエラ編集部などを経て現在、経済部記者。著書に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』を始め、『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』、『ヒルズ黙示録・最終章』、『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』、『ジャーナリズムの現場から』がある。近著に『東芝の悲劇』。キング・クリムゾンに強い影響を受ける。

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