ＮＢＣ「トゥデイ」、ホスト交代の大博打

　アメリカＮＢＣテレビの朝のニュース番組「トゥデイ」。

　１９５２年に放送が開始され、最近１６年は週間平均視聴率で同じ時間帯の他の番組に負けたことのない人気番組である。

　ところが、「トゥデイ」はこの４月、ＡＢＣのニュース番組「グッド・モーニング・アメリカ」に敗れ、週間平均視聴率トップの記録は８５２週でストップした。

　「トゥデイ」は年に２－３億ドルの利益を上げると報じられており、ここ数年ヒット番組に恵まれないＮＢＣにとって貴重なプロフィット・センター（利益を出す番組）である。慌てたＮＢＣは、就任してわずか１年の「トゥデイ」の女性ホスト、アン・カーリーを降板させ、サヴァンナ・ガスリーを後任に任命した。

　なぜ、ロンドン・オリンピックを迎えるあわただしい時期に女性ホストの交代に打って出たのか。その背景にはテレビニュースの軟派化という潮流がある。歴史と伝統ある番組の大騒動から、テレビニュースに何が起きているかを考えてみたい。

■「トゥデイ」の魅力

　「トゥデイ」は午前７時から４時間の生放送。現在はロックフェラープラザのスタジオ１Ａから放送されている。ガラス張りのセットの外側に視聴者が一瞬でも映りたいと集い、ホストがスタジオの外に出て集った人とおしゃべりするのは、ニューヨークの朝の風物詩である。

　元々は２時間の番組だったのだが、高視聴率のため、午前１１時まで放送時間が延長された。４時間の生放送ではホストの体がもたないので、３時間目と４時間目は最初の２時間とはホストの顔ぶれが変わる。

　では「トゥデイ」の魅力とは何だろうか。二つあると思う。

　一つは、ハードなニュースとソフトな話題をバランスよく組み合わせていることである。政治経済のニュースを的確に扱う一方で、お料理コーナーや芸能人へのインタビュー、さらにはスタジオ前広場でミュージシャンが歌を披露したりと、視聴者を飽きさせない工夫が抜群にうまい。

　もう一つは、ホストたちの仲のよさである。現在は、男女２人のメイン・ホスト、ニュースアンカー、お天気アンカーの４人が、「トゥデイ」の最初の２時間のホストである。メイン・ホストは夫婦で、ニュースアンカーはいとこ、お天気アンカーは近所の陽気なおじさんという役どころである。アメリカのテレビ界は「ケミストリー」ということばをよく使う。視聴者は４人のホストをファミリーとみなし、ホストたちが共感しあったり冗談を言ったりと仲のよいところを楽しみながら朝のひと時を過ごす。

■「トゥデイ」のホストの変質

　もっとも、「トゥデイ」の番組開始時にはメイン・ホストは男性１人だった。

その後、１９６１年にライターとして採用されたバーバラ・ウォルターズが最初の女性ホストにまで上り詰め、男女２人でメイン・ホストを務めるようになった。ウォルターズはアメリカのテレビニュースにおける女性アンカーの草分けで、独特の押しの強さがある（ちなみに、「ニュースキャスター」は和製英語といってもよいほど、アメリカであまり使われない表現である）。

　そして、１９７６年から１９８９年までジェイン・ポーリーが女性ホストを務めた。しっかり者にして真面目なキャラクターで、彼女もまた一時代を築いた。

　ところが、ＮＢＣが女性ホストをデボラ・ノーヴィルに交代したところ、ノーヴィルが冷たい美人だったため、多くの視聴者は功績あるポーリーを若く野心家のノーヴィルが追い落としたと受け止め、この時も大騒動になった。

　結局、１９９１年にはケイティ・カーリックが後を継ぐことになり、ノーヴィルは失意のうちにＮＢＣを去った。１９９７年にはマット・ラウアーがニュースアンカーから男性ホストに昇格し、このコンビはカーリックがＮＢＣを去る２００６年まで続いた。

　私がリアルタイムで「トゥデイ」を見てきたのは、