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東電値上げの論理は「裸の王様」~現実無視の仮定の積み重ね~

松浦新 朝日新聞経済部記者

 「原発事故の損害賠償資金の返済を明確化するべきかどうか」――。東京電力の電気料金値上げをめぐって、不思議な議論が繰り広げられている。国の原子力損害賠償支援機構は、すでに東電に2兆5千億円を出している。国民から見ればこれを「返す」のは当たり前だが、実際は東電の「借金」として扱われていない。この現実を見ない「裸の王様」ぶりが、値上げの議論をわかりにくくしている。

 この議論は、消費者委員会で「事業報酬」が多すぎるという意見が出たことから活発化した。

 電気料金は費用を積み上げていく「総括原価方式」で計算される。その中身は、燃料費や修繕費を積み上げていくものだが、その項目の1つに「事業報酬」がある。これは、東電の「もうけ」なのだが、その金額は2800億円になる。

 これが多すぎるのではないかという議論から出てきたのが、損害賠償資金を返すための資金の確保だ。東電は原発事故の賠償資金が払いきれないため、支援機構からの資金で支払っている。それは返さなければならない資金とされている。通常、「借金」の返済はもうけから出る。そうであれば、「事業報酬」のうちに、賠償資金の返済に回す金額を決めておくべきだ、という主張が出てきた。

 こんなことを改めて議論しなければならないのは、東電に賠償資金を返す法的な義務がないためだ。それは、東電を「債務超過」にしないという政府の決定がはじまりになっている。

 債務超過は、持っている資産よりも負債が多い状態をいう。であれば、巨額の賠償債務を抱えている東電は債務超過になるはずだ。そうなると、東電に対する融資は「不良債権」の扱いになって、銀行は融資ができなくなる。

 こうした事情で、支援機構から東電に対する賠償金の援助は「特別利益」として計上される。東電は支援機構に借りているのではなくて、もらっている(特別利益)ということだ。東電に対するこれまでの資金提供(約束を含む)は2兆5千億円にのぼるが、決算書を見ても、その金額は「債務」としては載っていない。今年3月期は支援を受けた初年度なので金額がわかるが、東電によると、来年3月期以降は、有価証券報告書にもその合計額は載らなくなる。国はこんな援助を「上限を設けず、何度でも」行うと決めているのだ。

 これは、東電が国の資金を「返す」といっても、そこには何の担保もないということになる。返済計画さえ示されていない。そうであれば、なおさら、電気代の計算の中だけでも「返済額」を明らかにして、着実な実行の担保にしたい。

 にもかかわらず、消費者委員会の事務局は強く抵抗する。それは、今回の値上げが「原発事故の処理のためではなく、原発が止まったことによる火力発電の燃料費の増加に対応するため」という「お話」の中で進んでいるためだ。

 要するに「原発事故の処理と今回の値上げは関係ありません。ただ、原発が使えなくなって高い燃料を使うので、値上げさせてください」というわけだ。そして、あくまでも事故を起こしていない電力会社の値上げ申請として扱うことを求めている。経産省も同じで、例えば、社員の給料水準にしても、JALなどの破綻企業と同じ扱いにすることを認めようとしない。

 その矛盾が強く出たのが、やはり「事業報酬」だった。

 事業報酬は難解な計算式で求められる。資本金などの自己資本に対応する報酬はその6.32%で、銀行からの借金や社債などの「他人資本」は1.61%で計算する。要するに自己資本が多いほど事業報酬は多くなる仕組みになっている。

 これが現実の自己資本に応じたものならまだ理解できる。ところが、

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