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BS朝日 日本再生プロジェクト「白熱セミナー 成功への道」 和久井康明・クラレ会長 基調講演

WEBRONZA編集部

 「日本再生プロジェクト 白熱セミナー 成功への道」

 BS朝日と朝日新聞WEBRONZAのコラボレーションで生まれた、公開収録+イベントという新機軸の番組。各界のキーパーソンが一堂に会し、成功の秘訣を熱く語ります。その後、会場の一般参加者からの質疑に応答。人生の先達が、質問者の立場に立ってアドバイスします。番組は7月29日に放送されました。それぞれのゲストの方の講演と質疑応答をご紹介します。最後は和久井康明・クラレ会長、そして伊藤元重・東京大学大学院教授のまとめです。

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ゲスト

田中良和(グリー社長)

川村康文(東京理科大学教授)

和久井康明(クラレ会長)

MC

伊藤元重(東京大学大学院経済学研究科教授)、下平さやか(テレビ朝日アナウンサー)

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成功への道 クラレ会長 和久井康明

 私、クラレの会長をしております和久井と申します。

 先ほど田中さんは、あと30年くらい働いてみたいと、いろんなことやってみたいとおっしゃったんですけど、私はその年齢をとうに過ぎておりまして、この会社に入って47年になります。

 まず、成功とは何かという話をすべきなんでしょうが、今日は若い方の方がどうも多いようです。そこで、まず一つは私の体験談をちょっとお話しして、もう一つは、これから企業を成功させるためにはどういうことをやるべきか、ということについて私が考えていることを少し述べてみたいと思います。

最も重要なのは「運」

 非常に月並みですけど、成功するということについては「運、鈍、根」が必要と言いますけれども、運、鈍、根が3つとも並列的に重要だということではなくて、最も重要なのは、やっぱり「運」ではないかというように思います。

 松下政経塾を始め、当初の数期に渡って、松下幸之助さんはご存命でした。その時に面接をしたそうですけれども、面接するときのポイントは何だという風に聞かれたときに、幸之助さんは「その者が持っている運と愛嬌だ」と答えたそうです。IQではなくて愛嬌なんですね。

 鋭い指摘だというようにに私は思っています。その話を聞いてから面接に際してですね。この人は運がいい人かどうか。それから人間として愛嬌があるかどうかというのを見るようになりました。それぐらい運というのは非常に重要な要素ではないかという風に思います。

 もう一つ「鈍」というのはですね、これは鈍感の鈍なんですけれども、ある意味では小さいことには鈍感であってですね。少し楽天的な部分を持ってるということが必要じゃないかという風に思います。

 さらに「根」。根気の根ですが、要はやっぱり継続は力なりで、いくら小さいことでも、ずっと続けていくということが非常に重要じゃないかという風に思います。

目的によって違う登り方

 私は、目的によって道が違うということを申し上げたいのですね。結局、私のようにですね、すでにある会社、一部上場会社であったわけですが、そこに入ってよじ登っていくタイプで成功する者と、田中さんのようなベンチャーを始めて創業者的に成功するという人では、当然「成功への道」が違うと思います。

 一番違うのは、仕事というのはやはり登山をするようなものでありまして、既存の組織の中では、登山道を地道に登っていくということが必要だと思います。こつこつやっていくという人というのは登山道を行くようなものです。ですから、ペースを守って登っていかなければなりません。もちろん危険はありますけれども、協力者もいますし、隊列を守ってですね。きちんと登っていくということだと思います。

 一方、ベンチャーに関して言えば、どこかでジャンプをするということがあるでしょう。人が思いつかないようないい度胸をしてポンと跳躍する。ジャンプするということが必要じゃないかというように思います。自分が跳んだだことないわけですけれども、人のを見ていてそう思います。

 次に、私が思ってる重要なことをちょっと申し上げます。一般にですね、人間を2つに類型的に分けますと「評論家型」と「当事者型」があります。評論家というのは非常に問題の指摘能力が優れている。こういうことをやらねばならない。こうすべきであるといいう「べき論」ができて問題指摘能力も鋭い。

 当然、そういう人間も会社、組織の中には必要なんですけれども、しかし、それだけでとどまっていたのでは、組織は少しも前進しないわけです。解決すると、処方箋を出して具体的な実行をしていくと、そういう人材が必要です。

 「随所に主となれ」という言葉があります。やはり、仕事を与えられたら私がこの仕事の主人公であると思い定め、どうやって問題を解決をしていくかということをいつも念頭において、仕事に取り組むという、そういう姿勢が一番望ましいと思います。

 次にこれからの企業の成功への道ということですけれども、やはり今の企業環境で最も考えなければならないことは、世界がワンマーケットになったということです。

 そうなりますと、この一つになった市場で競争に勝たなくてはならない。では、その競争力というのは何か。

競争力の源泉は人材

 競争力の源泉は全て人材に関わると思います。私は長年人事関係に携わってきて、人材育成にも関わってきたつもりですが、素質のいい人間を採用するのは、もちろん重要なことでありますけれども、やはり企業の中でで、どうやって育成していくかという側面の方が大きいと思います。

 そのためには、まず一つは、同じことをいつまでもやらせないということです。ローテーションが非常に重要だということを思っております。

 つまり、トマトならトマトだけを同じ畑で作り続けますと、連作障害というのが起きて次第にトマトは毎年小さくなっていく。同じようなことが会社の中でも言えるわけです。適当なところで場所を変える。それから職務を変えるということを定期的にやるべきだと私は思っております。

 もう一つ日本の場合、経営のトップになる人の育成のキャリアパスと言いますか、どういう勉強をさせるかというようなことが決まっていないケースが多いです。

 私の例を挙げるのも何ですが、社長になるように育てられたような記憶は全くありませんし、ある日突然呼ばれて、お前やれということになったので驚いた次第です。そういう意味では、こういうこともやっておけばよかった、もし社長にしてくれるというのが5年前にわかっていれば、もっと勉強できたというようなことも思います。

 そういう意味では、これから競争に勝っていくためには、経営トップは非常に重要ですから、若いときから然るべき人をピックアップして、それで重要なことを、適切なタイミングでトレーニングをしていくということが必要だと考えています。

日本的経営は終わっていない

 日本の経営、あるいは日本的経営の骨格は、「終身雇用」「年功序列」「企業内組合」を3種の神器とするものと言われておりました。こういうのはもう終わったんだという議論がございますけれども、決して終わっておりません。

 終身雇用というのは「長期安定雇用」という風に言い換えた方がいいと思いますが、それは依然として残ってますし、年功というのは必ずしも実力主義と両立しないものではなくて、年功のなかで実力主義ということが実現できると思っています。

 ただ、日本の場合、会社自体が情に流される部分が多いのかもしれません。おそらく情が7分で理が3分というような、非常に偏った経営になりがちだというところが問題だと思っております。

 科学的な論理性のある経営をやるためには、いろんな基準を、ルールを組織の中に設定していくことが必要だと私は思います。これが理の部分であり、情7、理3というくらいの割合を、6分4分か、5分5分くらいまでに是正する。そうすれば、日本的経営というのは世界に冠たるものであって、将来とも、日本企業は決して競争に負けないで、頑張っていくことができるんじゃないかというように思っています。

【質疑応答】

伊藤 どうもありがとうございます。大変おもしろいお話だったんですけど、運、鈍、根ですか。「運」なんですけども、運が悪い人はどうしたらいいんですかね?

和久井 よく年末恒例の福引きを引いたらですね、いつも「はずれ」ばっかりというような人もいますし、あるいはヨーロッパ旅行が当たる人もいますよね。やっぱりですね、どっかでチャンスが巡ってくるという局面はね、長い人生ではある。まあ短く終わっちゃう人も運が悪いわけですけども。要するに長生きさえすればなんとかなると、こういう私は考えです。

伊藤 まず、どこかで運のチャンスが回ってくるということですよね。

 それでは会場の方から少し質問をしていただきたいと思います。

女性22歳 学生〉 運と愛嬌が大切というお話しでございました。世間一般で考えますと、やはり、愛嬌というのはいろいろな場所、様々なフィールドで必要とされていると思います。社会に出て行く上で、仕事をする上で重要な愛嬌とは何だとお考えでしょうか?

和久井 愛嬌という言葉でくくってしまいましたけど、これEQという言葉もありますよね。Emotional Quotientって言って、いわば人間関係とかそういうものでですね、非常に円滑に付き合っていける。人と協調できるし、人と非常に親しくなれる能力ですね。

 問題解決は1人では出来ません。必ず人の協力を仰ぐ場面がありますし、あるいは上司が反対をすると、自分のやろうとしている方針に反対するケースは、幾らでもあるわけですけれども、それに対して説得をする必要がある。そういう場面でも、いわゆる感情面で、知能指数ではなくて感情指数というか情感指数というか、そういうものがあります。

 例えば、面接等に行った時に、急に作り笑いするということをしても駄目ですね。だいたい面接というのは会社側から4、5人ぐらい出てきますね。その中の誰か、社長、会長に限らないですけれども、自分と親しくなれそうな人を見つけることです。そして、その人に向かってお友達であるかのように話をするとか、受け答えをするということが非常に好感度を増す秘訣ではないかと密かに思っております。よろしゅうございますか。

女性 ありがとうございます。

男性25歳(会社員) 御社はですね、やっぱりミラバケッソという言葉に代表されるように、高いシェアを誇る素材、独特の素材をどんどん開発しているというイメージをあるんですが、やはり社員の方々のモチベーションが高いから、そういう結果に結びついていると思っています。 開発の現場で何か会長が取り組まれていること、工夫されている点があればご教示いただきたいと思います。よろしくお願い致します。

和久井 今おっしゃていた研究開発で一番困るのは、テーマとして何をやればいいかを見極めて決めるのが困難であるということと、いつまでそのテーマを追求するかということです。

 人間の頭数は限られている。予算も限られています。その中で、何とかして未来に化ける素材を開発しなければならないわけでありますから。やはり、マイルストーンを設定するのが大切ですね。何かを開発をしていく上で、いつまでに、5年なら5年というタームの中で、どこまで達成していくというようなものです。実験室レベルで作っていたものを、事業化してマーケットに出していくのが何年後とかいうようなことが大切です。もちろん、微調整をして少しずつずらすことはあっても、一定のマイルストーンを設けるということは指摘しておきたいと思います。

 それからテーマを絞り込むということですね。これも1人で3つも4つもテーマを追いかけてても、どれも中途半端になる可能性がありますから。もっと外部を見回して、これぞという協力者、コラボ出来る相手というのを見つけて、そういうことのなかでで効率的に素早くすすめるという努力ですね。研究開発をやっていく方法論にも、科学的なマインドというのを持ち込むということが非常に重要だと私は思っております。

男性 ありがとうございました。

伊藤元重教授による総括

 個人的な話で申し訳ないですけれど、私は伝記が大好きなんです。別に偉人だけじゃなくてね。色々なタイプの伝記ですね。1人としての人が、あるいは個人が何をやるかのトータリティ、全体性と言うんですか、それは成功の部分もあれば、失敗した部分もあるし、楽しい部分もあれば苦しい部分もあってね。今日のお三方、それぞれ違った人生があるんだなと、お話をうかがって改めて実感しました。

 例えば、田中さんの話を聞いていて一番印象に残ったのは、社会を変えたいとか、あるいは10年後20年後どうなっているかわからないけど、今とは違う物を作りたいとか…。特に若い人には、社会を変えたい、あるいは世の中変えたいという思いを強く持ってもらいたいと思います。

 川村さんの話では、非常に印象に残ったのはサイエンスというものにに対しての非常に強い思いですね。「愛情」に近いところがあるように感じました、。これもすごく大事だと思います。自分が一生守っていきたいものといいますか、それをベースに色々な行動を起こすということをされていて、そういう意味では、川村さんの話も非常におもしろかったですね。

 和久井さんからも、色々なことを教えてもらいました。和久井さんの話で最も興味深かったのは、成功する道というのは色々あるんだということですね。いろんな成功のロールモデルがあるわけで、人によって登山道もいろんな道があるんですね。獣道もあれば、荒波の大海もあれば、ひとつひとつ着実に上がっていく登山道もあるんだ。そんな話が非常に印象に残りました。

 私自身、近くで話を聞かせていただいて、みなさんからの質問も非常におもしろかったのですけれども、こういうことを聞いて、今日何となく成功への道を進む「道しるべ」と言うんですかね、これが示されたのかなというように思っております。