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 日本再生戦略で農林漁業が重点3分野に挙げられている。その目標として、担い手不足の解消、農業の規模拡大による生産性向上、農林漁業に加工、流通、観光業を加えた6次産業化による農林漁業者の所得向上、高いレベルの経済連携と農林漁業の再生や食料自給率の向上の両立が、掲げられている。この目標自体に大きな反論はないだろう。

 問題は、それを実現するための政策である。

 一つ目の重点政策は、戸別所得補償を推進するとともに、地域の中心的な経営体へ農地が集積するように、農家が農地利用集積円滑化団体等へ自作地を白紙委任するときに、農地の出し手となった農家へ協力金を交付するとしている。農地利用集積円滑化団体等を通じて地域の中心的な経営体へ農地が貸し出され、規模拡大が進むことを想定している。これにより、現在1ヘクタール程度の水田農業を20から30ヘクタールにしようとしている。

 規模拡大によって生産性が向上すれば、コストが下がり、TPPなど農産物関税のほとんどを撤廃する高いレベルの経済連携協定を推進することができるという考えなのだろう。しかし、残念ながら、ここに掲げた政策では、この目標は実現できない。理由は三つある。

 一つは、この政策の裏側に、減反政策の維持が明確に存在しているからである。戸別所得補償の受給資格者は減反に参加している農家である。戸別所得補償の推進と減反政策の維持は同義である。農産物1単位のコストは、農地面積当たりの肥料、農薬、農機具などのコストを農地面積当たりの収量で割ったものである。農地面積当たりのコストは規模拡大や安い農業資材の購入で低下する。

 品種改良で農地面積当たりの収量(単収)を増やせば、コストは低下する。しかし、減反を行っているもとで、単収を増やせば、必要な作付面積は減少し、減反面積が増加する。そうなると減反の補助金が増えるので、財政当局は嫌がる。結果として、国や都道府県の研究者は単収向上のための品種改良を行わなくなった。今では、日本の単収はカリフォルニアより4割も低くなっている。減反の維持は単収向上によるコストダウンを困難とする。

 第二に、戸別所得補償の受給資格者は、零細な兼業農家を含むすべての販売農家である。市場米価に戸別所得補償が上乗せされるということは、米価が上昇したことと同じである。かつて食管制度の高米価時代には、コストの高い零細な兼業農家も町で米を買うよりも自分で作った方がまだ安上がりだと考えて、農業を続けてしまった。農地が出てこないから、専業農家の規模拡大は進まなかった。戸別所得補償政策の本質は、食管制度への回帰である。

 零細農家を「戸別所得補償」で温存しながら、零細農家に協力金で農地を出させようとする、暖房と冷房を一緒にかけるという矛盾した政策を取ろうとしているのだ。と言うより、高米価プラス農地流動化奨励金という方法は、これまで何十年間も農政がさんざん使って全く効果が出なかった政策なのである。しかも、あろうことか、農地の出し手に協力金を払うという政策は、民主党が政権交代後直ちに事業仕分けした麻生政権の目玉政策なのである。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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