森永卓郎
2012年08月21日
政府の国家戦略会議が策定した「日本再生戦略」が、7月31日に閣議決定された。政府が定める公式の経済活性化戦略だ。日本再生のカギを握るのは、医療、環境、農林漁業の成長3分野だとし、規制緩和や予算の重点配分などを通じて、100兆円超の新市場を創出し、480万人以上の新たな雇用を生み出すことにしている。
ただ、政府の掛け声とは裏腹に、この再生戦略への期待を示す国民や企業はほとんどおらず、ロンドンオリンピックの熱狂の下で、メディアでも大きく取り上げるところはなかった。
私自身も、「日本再生戦略」は効果がないどころか、官僚の利権拡大と税金の無駄遣いに終わると思っている。この戦略自体が時代錯誤の「産業政策」だからだ。
かつて通産省は、10年ごとに通算ビジョンを発表し、その後10年間で取り組む産業政策の方向性を示していた。最初に作られた1960年代ビジョンでは、日本の未来を背負う重点産業を選ぶ基準として、(1)生産性基準と(2)所得弾力性基準を採用した。
国民所得を拡大するために、生産性の高い産業に資源を集中すべきだと考えたのと、これから日本人が豊かになっていったときに、国民が欲しがる商品を作る産業を育てようとしたのだ。
この二つから作られた産業政策が「重化学工業化」だった。電気機械や自動車など国民生活を豊かにする産業を育てる前に、その基礎となる鉄鋼や化学産業をまず整備しようという戦略だった。この戦略は見事に当たり、その後日本経済は、高度経済成長を達成した。通産省の最大の成功体験だった。
しかし、高度経済成長は、その裏側で公害問題や長時間労働の問題を引き起こした。そこで、
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