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ポール・ライアン氏の経済思想とは(1)

吉松崇 経済金融アナリスト

 アメリカの大統領選挙が近づいてきた。8月12日、共和党大統領候補のミット・ロムニー氏は、副大統領候補として、ウィスコンシン州選出の下院議員、ポール・ライアン氏を指名した。ライアン氏は、今年1月、オバマ大統領の一般教書演説に対する反対演説で、一躍名を挙げ、共和党保守派の間では若手のホープと目されている。

 ハードコアな保守層に今ひとつ人気の出ない、東部エリート色の強いロムニー氏としては、中西部の出身で、ティー・パーティー運動のような草の根保守層の支持があるライアン氏と組むことが、選挙戦術として有利だと判断したのだろう。だが、ライアン氏という選択には、それ以上の意味がある。というのは、ライアン氏が、ロムニー氏以上に個性的な政治家だからだ。

 これまでの大統領選挙では、それぞれの政党が大統領候補を決める予備選挙の段階では、例えば共和党の中道派と保守派の間で(民主党なら、中道派とリベラル派の間で)、激しいイデオロギー論争を行っていても、本選挙ではイデオロギーをなるべく表に出さずに、どちらの候補も中道寄りになるのが常であった。本選挙では、それぞれの政党のコアな支持層以外の票をいかに取り込むかが勝敗を決するから、これが常識的な戦略であった。

 ところが、こうした常識的な戦略から考えると、ライアン氏はかなり特異な副大統領候補である。彼は、2010年の中間選挙で共和党が勝利して以来、下院予算委員会の委員長として、オバマ大統領の財政方針と激しく対立して来た筋金入りの「小さな政府」至上主義者である。

 ライアン氏は、ロムニー氏よりも、はるかに個性的な経済政策観の持ち主であり、それで有名な(見方によっては「悪名高い」)政治家である。ロムニー氏が、彼を副大統領候補に選んだということは、この大統領選挙がイデオロギーで争う選挙になるということである。それも、ライアン氏の経済思想の是非が争点になるのは間違いない。そこで本稿では、ライアン氏の財政政策観、次稿で金融政策観を取り上げてみたい。

ライアン氏の理想は19世紀型夜警国家である

 今年3月に、ライアン氏が取り纏めた、共和党下院提案の2013年度予算案は、現代の常識からすれば殆ど実現不可能と思われる、非常にラジカルな予算案である。主なポイントは、

(1)所得税の最高税率を25%に引き下げ、最低税率を10%に引き上げる。

(2)公的年金を除く、殆どの社会保障関係費用(具体的には、高齢者向け医療保険(Medicare)、低所得者向け医療保険(Medicaid)、食糧補助(Food stamps)等)を向こう10年かけて、大幅に削減する。

(3)全ての裁量的支出(現在、GDPの約8%)を、防衛費を除き、向こう10年間で半減する。

 この予算案を分析した超党派のシンクタンク、Center on Budget and Policy Priorityによれは、「ライアン・プランは、アメリカの歴史上、これまでになかった貧困層から富裕層への大規模な所得移転であり、長期的には数千万人単位の低所得者、高齢者が医療保険を失い、健康上のリスクに晒されることになろう。これは『強き』を助け『弱き』を挫く、『さかさまロビン・フッド・プラン』とでも呼ぶべきものだ」。

(Statement of Robert Greenstein, President of CBPP on Chairman Ryan’s Budget Plan, March 21, 2012)

http://www.cbpp.org/cms/index.cfm?fa=view&id=3712

 また、MIT(マサチューセッツ工科大学)ビジネス・スクールのサイモン・ジョンソン教授は、

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筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『労働者の味方をやめた世界の左派政党』 (PHP新書、2019年)、『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

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