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ポール・ライアン氏の経済思想とは(2)

吉松崇 経済金融アナリスト

 前稿で、ポール・ライアン氏の財政政策に関する見解を検討した。この稿では、金融政策についてのライアン氏の見解を見て行きたいのだが、結論を先に述べれば、ライアン氏の金融政策に関する見解は、一言で言って、著しく異端の見解である。それは「珍説」とでも呼ぶべきものだ。

金融政策そのものへの「無理解」

 少なくともアメリカでは、保守派(例えば、バーナンキFRB議長)であれ、リベラル派(例えば、ポール・クルッグマン・プリンストン大学教授)であれ、金融政策に関して、同じ常識を共有している。つまり、その時々で、採るべき政策判断に多少の相違があったとしても、或る政策(例えば、金融緩和政策)がもたらす政策効果については、共通の理解がある、という意味である。ライアン氏が、異端であるというのは、金融政策そのものに関して、全く異なる理解(或いは「無理解」と言うべきか?)を有しているからである。

金融政策を巡るライアン氏の発言と行動

 以下、ライアン氏の過去の発言と行動の幾つかを拾ってみよう。

(1)FRBの金融緩和に批判的

 2011年2月、ライアン氏は議会の公聴会で、バーナンキ議長に対し、「FRBが行ってきた量的緩和は、短期的なベネフィットより、長期的な弊害が大きい」と述べている。彼は、2008年の金融危機以降、事ある毎に、FRBの量的緩和を批判し、インフレへの懸念を表明している。失業率が8%を超えているような状態で、インフレが問題となる可能性は、限りなく小さいのだが。

(2)金利を上げると景気が良くなる?

 2010年7月、ライアン氏は、ワシントン・ポストのコラムニスト、エズラ・クライン氏のインタビューに答えて、「現在、人々の投資意欲が萎縮しているので、FRBは、金利を引き上げるべきだ。金利が上がれば、人々が抱える現金が、投資に向かうだろう」と述べている。世の中に、政策金利を引き上げると、設備投資が回復して景気が良くなる、という経済学は存在しない。

(”What would Republicans do for the economy? Interview with Rep Paul Ryan” by Ezra Klein, Washington Post, July 2010)

http://voices.washingtonpost.com/ezra-klein/2010/07/what_would_republicans_do_for.html

(3)ハンフリー・ホーキンズ法の廃止

 1978年に成立したハンフリー・ホーキンズ法は、FRB(連邦準備理事会)が金融政策を遂行するに当り、物価の安定と失業率の安定という、二つのミッションを持つことを定めた法律である。2008年、ライアン氏は、この法律を廃止して、FRBのミッションを、物価の安定のみとする法案を下院に提出している。「FRBが失業率に目を奪われるのは宜しくない」との考え方である。ライアン氏は、「全ての失業は自発的失業である」と考えているのだろう。この法案は、上院が取り上げなかったので、その後、廃案となっている。

(4)通貨を一次産品にリンクさせる。

 「金本位制」や「銀本位制」とは明言していないが、ライアン氏は、様々な機会で、管理通貨、即ちペーパー・マネー、に対する不信感を表明している。共和党の予備選挙で、FRBの廃止と、金本位制、或いは銀本位制への復帰を訴えた、ロン・ポール候補と同じ発想である。

FRBバッシングの本質は全ての政府組織への不信

 アメリカでは、「政府の存在そのものが、社会を破壊する諸悪の根源である」と考える社会思想、リバータリアニズムが社会に深く根付いている。ティー・パーティーという草の根保守運動の源泉である。こうした思想・信条を抱く人々にとっては、 ・・・ログインして読む
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筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

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